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FGO 煉獄の抱擁

※茶々の宝具、絆レベルの台詞に関するネタバレあり※



 まるで地獄のようだと思った。
 虚ろな眼窩をぽかりと開け、白々とした肋を晒した骸骨は手にした武器で次々と敵を貫き屠る。大地に描かれるのは豊臣の家紋に日輪の花。その中心にふんぞり返った少女は悪鬼の面をまとい、燃え盛る白刃を突き立てる。その姿が焔の翼を広げる不死鳥へと変わるのはほんの一瞬の出来事。否、果たしてそれは何度でも蘇る永遠の象徴などではない。怨嗟によって輝く火の粉を撒き散らし、黄泉路へと誘うは煉獄の両翼。ただ、ただ、愛し子を離さんと躍起になる行き過ぎた母性。母も狂えば鬼になり、また鬼も子を抱えれば母になる。ゆえに彼女は成り代わる。それがどんな理不尽でも、歪められた後世の逸話としても、ただ滅びの定めを再現する。
「いざや光臨!」
 頬を撫でる熱波がどんなに熱く、耐え難いものでも、真は立ち尽くした場所から一歩も動かずにそれを見ていた。青い瞳の隅々が真紅に染まるまで、黒い髪の一本一本が湧き起こる熱さで渦を巻いても。見届けることこそが自身の役目だと真は理解していた。なぜなら真はマスターだ。そして、浅井三姉妹の一人でありながら豊臣秀吉の側室となり、日輪の寵姫と呼ばれながら最期には豊臣を滅ぼした女の烙印を押された彼女、茶々は真のサーヴァントとして現界しているのだから。
「絢爛魔界日輪城!」
 彼女の声が爛々と響く。燃え盛る大阪城の化身と化した炎が空を舐め、地を焼き尽くし、我が敵を討ち滅ぼす。恨みの声を飲み込んで、噛み砕き、存分に暴れ狂った焔はあとには何も残さない。灰も塵も何一つその名残を見つけられぬまま、宝具を撃ち終わったサーヴァントはまた何事もなかったかのように元の姿へと戻るのだ。
 日輪を模した前立てに皐月の人形のような兜。栗色の髪は幼子らしく細く艶やかで、結い上げられることもなく存分に焦げくさい風に靡いていた。衣装は絢爛豪華を愛する彼女の好みに合致するよう金糸を使って桐紋、菊紋、巴紋を描き、まるで十二単のように広がった真紅には極彩色の小花模様が散りばめられている。
 その裾をばさりと払い、振り向いた顔は満面の笑みを浮かべていた。まるで、幼子そのもののように。
「どうじゃ!さすが茶々であろう!?マスター、見ておったか!?」
 駆け寄ってきたサーヴァントは先程と変わらず、至って天真爛漫なように見えた。それはそうだ。いつだったかキャスター、クー・フーリンも言っていた。サーヴァントにとって宝具は本能であると。ならば宝具を使うことは彼女にとって「日常」であって当然だった。
 ただ真だけが動揺していた。彼女の歴史を知り、彼女の慟哭を知り、彼女自身を知った真だけが、立ち竦んだまま動けなかった。
 傍までやって来た茶々が棒立ちの主人の様子に首を傾げつつ、こちらの顔を覗き込む。マスター?と幼い声が呼び、なんとか返事をしようと思っても終ぞ喉の奥から平静の声は出てこなかった。その様子に察しのよい彼女は何事か心得たのだろう。まったく武器を取るに相応しくない小さな手が仕方ないとでも言いたげにそっと真の手を取る。その掌は手袋ごしであっても仄かな熱を孕み、温かい。
「けったいな顔しおってからに…妾はこの通り無傷よ」
 何を案じておる、と優しく問われて心の堰が切れる。茶々と呼ばれた己が名に、ん?と答えるその声色は気が狂いそうなほどに柔らかかった。
「いなく、なっちゃうかと思った」
 真の言葉に少女は目を見開く。何か言おうと口を開き、しかれども何も言わずに閉じられた。戯け、と小声で呟いたその調子は彼女の伯母である第六天魔王のそれによく似ている気がする。しかし、魔王にはならず、覇王にもならず、ただ日輪とともにあり、その没落まで寄り添った女は次にはもう慈愛を含んで微笑むに過ぎない。真の手を一つさすり、二つさすり。その手つきが母そのものであると、遅ればせながらに真は気が付いた。
「マスターを置いてサーヴァントが……いや、かわいいそなたを置いて妾が先にゆくものか」
 そして、囁かれた言葉にたまらなく安堵するのもまた事実。肩から抜けた力とともに素直に首肯すれば、うむ!と晴れやかな笑顔が眼下で踊った。
「さあて、はぐれた仲間を探さねばならぬなぁ。よし、それまではこの茶々がマスターの手を握っといてやろう!迷子になってはいかんからな!この!茶々が!直々に!」
 そう高らかに宣言した茶々はいつもの茶々だった。豪奢を好み、なんぞ面白きことを好み、日輪のようにきらきらと輝く娘だった。そんな彼女に手を引かれ、真は思わず相好を崩す。ぎゅっと握り締められた掌の温度はじんわりと熱く、ただ彼女がそこにいることに感謝した。たとえそれが歪んだ想いと歴史との結果だとしても。茶々は、淀殿という暗澹たる女を飲み込んだ娘はこれほどまでにきらめいているのだから。


2017.04.16

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