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UNCAGED RED DESIRE -b

ud24 本作品は性描写を含みます ud24


 ばさりと身に纏っていた服を脱ぎ捨てる。今正に夜を迎えようとしている窓の外は一面の紫苑から紺青へと変わりつつあり、鮮やかな色水を流し込んだようなその空の色を惜しみながら、アリスゼルはカーテンを引いた。途端、薄闇に包まれるベッドルーム。その隅で肩身狭そうにしている間接照明のスイッチをついでのように足で踏むと、ぽわりと今度は橙色の灯に部屋の中が映し出される。ごちゃごちゃとアリスゼルの私物がビル郡のような影絵を幾つも作り、そして、その中に一つ、三角形の耳と長い鼻先と大きな尾を持つ四本足の獣の影が一際際立って浮かび上がる。詳細を述べずともそれはベッドの上で信楽焼の狸のように微動だにしない、ギムレットのものである。
彼は、極度の緊張感からか普段は軽やかに飛び乗るベッドの上に昇るのでさえ、三回も失敗し、あまつさえ昇ったかと思えば、見ての通り置物のように尻尾の先さえ動かさない。蒼色の瞳はうつり、と何処を見ているのか。少なくともアリスゼルを、視界に入れられないほどに動揺というか、困惑というか、否、やはり緊張しているのは確かなようだった。
 アリスゼルは軽く肩を竦めると、ぼすん、と乱暴にベッドの上に飛び乗る。軋むスプリングに解り易く彼が反応し、揺れた足場に軽く踏鞴を踏む。ずいと顔を近づければ、蒼い瞳が決まり悪そうに逸らされた。それが拒絶ではないのは、困ったように揺れている尾を見ればすぐに解る。全く、純情というか純真というか、情けない、というか。
「おいこらてめぇそれが可愛いお姫様に対する態度か、あ?」
 そう逆立ちしてもお姫様には聞こえない、どちらかというと路地裏のチンピラのような口調で平生と吐き捨てるアリスゼルに、ギムレットが慌てたように視線を戻す。しかし、相変わらずその瞳の色はどうして良いか解らない、と言いたげに惑い、童貞なのは確かに解るが(―童貞、だろう、どう考えても)、それにしたって少々情けなさ過ぎるのではないだろうか。アリスゼルだって一応、処女であると言うのに。いや、それだけは誓って言っておこう。アリスゼルは、処女である。ちなみに童貞ならば若干13歳で捨てさせて頂いたが、今はそんなことはどうだって良いだろう。ああ、全く関係ない。今、重要なのは如何にしてこの若狼に童貞を捨てさせるか、である。こうなったらアリスゼルが彼を押し倒した方が、いっその事早そうだが、それは何となく違うような気がした。それぐらいは、アリスゼルにだって、解っている、つもりだ。
 軽い吐息ついて、アリスゼルは彼の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でる。とりあえずこの硬い身体を何とかしてやろうと思い、するりと身体を引き摺ると、両手で彼の頬を包む。途端、ピンと耳を立てた彼に苦笑しながら、口開け、と尊大に命じる。アリスゼルの言葉に素直に従って口を開いた彼に、緩く笑うと、アリスゼルは何一つ躊躇うことなく、その鋭い牙がずらりと並んだ口の中に、己の舌を差し込んだ。吃驚した彼が一瞬でも口を閉じれば、死ぬな、と、何処か頭の冷静な部分が考えるが、割り込んだ思考はすぐに霧散する。舌先の敏感な感覚に触れる、生ぬるい熱。ひちゃと濡れた音に身体を震わせたのはアリスゼルだったのか、それとも獣の方だったのか。キス、というには覚束ない。ただ、アリスゼルの舌が、確かめるように獣の広い口内を舐める。口蓋に、鋭い犬歯、奥で縮こまっている舌。己の唾液を擦り付けるようにそれら全てを舐めとると、アリスゼルは漸く彼から離れた。
 そして、今度は自ら小さく口を開いて。
 誘う。蒼い瞳が一瞬迷いを込めてアリスゼルを見たが、しかし、すぐに意を決したようにおずおずと自ら舌を伸ばしてくる。口の中に。それ自体が筋肉で出来ているかのような、獣の舌がゆるりと差し込まれる。唾液を含んだ軟体器官は熱を帯び、アリスゼルはその熱を受け入れるべく更に口を開いた。先程アリスゼルがしたのと同じように、口蓋を舐め、歯列をなぞり、一つ一つ確かめるようにゆっくりと口内をなぞっていく。ひちゃ、ひちゃ、と濡れる音を響かせて、繰り返される、キス、未満。拙いという以上に拙いそれを施されながら、アリスゼルは鬱蒼を眼を細めた。別段、この行為によって快楽が得られる、というほどのものではない。だが、単純にギムレットが進んで行っているという事実が、嬉しかった。全てに戸惑う無知の獣が、どうにか、人の身であるアリスゼルに何か与えようとしている姿が。そういうのも、《嬉しい》、ものなのか、と。
「…アリスゼル、」
 十二分に口内を舐め尽した彼が漸く口先を離して、囁くように名前を呼ぶ。何だか熱を帯びたように思えるその声に、アリスゼルは微笑すると、彼の喉を撫で、ちゅ、と鼻先に口付けた。蒼い瞳が、きゅる、と細くなって、耳が伸びる。
「アリスゼル、」
「んー良い子だ、ギィ。じゃあ、人に変われ」
「………」
「何故黙る。てめぇ、俺に慣らすの全部やれってぇのか」
 どういうことだ?と言わんばかりに尾を揺らしている獣を促して、有無を言わせず人へと姿を変えさせる。変化は一瞬で、何時見ても魔法のようだ。質量保存の法則などぶっちぎりで無視して(否、一応遵守しているのか?)、
瞬きの後にそこにいたのは、獣の時と然して変わらない困惑した瞳をした一人の青年だった。逞しい長躯に銀色の髪。精悍だけれど柔らかな顔立ちをしているというのに、今はベッドの上で全裸で、更に何故か正座なのでちょっと間抜けだ。あの獣の時の前足を揃えた姿は人間で言えば正座なのか。成る程、ちょっと納得。
「正座やめ。胡坐」
 片手をぱたぱた振りながら命じておいてアリスゼルは自分もジーンズと下着を脱ぎ捨てる。ぎょっとしたような雰囲気が、すぐ傍からしたが、気にしない。腕を伸ばしてベッドの横に転がしておいて紙袋を手に取る。中身は押して知るべく、例のあの。青蜘蛛は意外にも太っ腹に上等の潤滑剤をチューブで二本、それにジェルタイプのものを一袋、希望通りに入れてくれた。ついでにコンドームとバイブレーターもまたこれ無駄に巨大サイズを二つ三つ持たせてくれたが、今回は使いそうにないので、その辺に転がす。とりあえずチューブだけを手にとって、言われた通り胡坐をかきながらも、アリスゼルに視線を合わせたまま、ぴくりとも動かないギムレットに―まあ動かなくて都合が良かったので、そのまま膝立ちで彼の腰の辺りにスタンバイ。
 上から彼の銀色の髪を見下ろすと、ここまでの至近距離に来て漸く我に返ったのか、急にわたわたと彼が行き場のない、腕だとか視線だとかを彷徨わせ始める。もう大分遅いのだから、いい加減腹を据えて欲しいのだが。何だかギムレットが始終慌てているので、アリスゼルが覚悟を決める暇もありはしない。どちらかと言えば、恐らくこれから未知の領域に突入するのはアリスゼルだと思うのだが。仕方なく、彼の彷徨う片手をぱ、と手に取る。太い手首。男らしさを十分過ぎるほど滲ませた大きな掌をそっと、自分の胸の辺りに当てる。無論、素肌の。温かい掌は、けれど、アリスゼルを一瞬ふるりと震わせた。一方、ギムレットの方は跳ね上がらんばかりに驚いてみせたのだが。
「お前は少し落ち着け」
「………すまない…」
「まあ、良いけどよ」
 何もかも初めての経験に戸惑う心は、アリスゼルにだって解る。しかも、彼は獣として当たり前のように、同種と交わるのではなく、人であるアリスゼルと交わろうと言うのだから。その困惑も、当然なのだろう。彼の掌が触れた位置。ちょうど心臓の場所だったせいか、自分の鼓動が、緩く波打って聞こえる。とくり、とくりと、たぶん、彼のそれも同じように繰り返される、生きている証の、音。皮膚を通して、その音を拾っているのか、ギムレットは静かに眼を細めた。恐らく無意識なのだろう。するりと無骨な掌が、アリスゼルの肌を撫でる。
 その、感覚。その、感触。
 ぴく、と耳の先を下げたアリスゼルに彼は気付いていない。ただ、慈しむように触れる掌が、熱が、心地良くて、何も言わずにアリスゼルは眼を閉じる。視界が閉ざされると、敏感になるのは触覚、嗅覚、それに聴覚。彼の髪から漂う日溜りの布団みたいな匂いに、強い獣の、否、何だろう、これは。針葉樹の太い幹に寄り添っているような、そんな錯覚に陥るような微かだけれど無視出来ない匂いが、確かに鼻先を擽ってくる。これは、ギムレットの香りなのだろうか。アリスゼルに香水を付ける趣味はないし、こんな匂いの煙草は吸った覚えがない。ふむ、と首を捻っている間に、彼の掌がするりと動いて胸元から、脇腹へと移る。アリスゼルの肌は、何も傷一つない玉の肌、という訳ではない。あちらこちらに、あの仕事この仕事で付けられた傷が残る。そして、脇腹のそれは、最も新しい傷の痕だった。それを、彼は何度も何度も掌と指先で、撫でる。ゆっくりと、なぞるように、執拗とも言えるほどに。
 眼を閉じていても解る。彼が痛ましい表情で、その行為を繰り返していることを。一生の、後悔を。たとえ、アリスゼルにとっては数多くある傷の一つに過ぎなくとも。彼にとっては、自分に刻まれるよりも苦しい傷だ。
「………………………」
 そう、そういう真剣な話であって、今、アリスゼルは彼の慈しみの行為を黙って謹んで受けているべきであるのは、解っている、のだが。しかし、何事にも無視出来ない感覚というのはあって何事にも不可抗力というべきものはあって、何がどうしてどういう訳か、アリスゼルは今、確かに、彼にゆっくりと撫でられている場所から、快感、を拾っていた。大きい掌。優しい感触。熱。ギムレットの匂い。聞こえる鼓動。呼吸音。全てが、全てが、静かにアリスゼルの熱を煽る。静かではあるが、僅かではあるが、熱を帯びる心臓と、血流。もっと、触って欲しい。もっと、触れて欲しい、と思う。脇腹だけではなく、全身隈なく、全てに、その掌で、指先で、熱で。
「………大丈夫か、俺…」
 思わず漏れた独り言にギムレットが掌の動きを止めて、此方を見上げてくる。嗚呼、駄目だ、その蒼い、透き通った色。どうしようもなく、アリスゼルの赤い情欲を煽る。ぐらりと傾く理性。何がどうして、アリスゼルをそうさせるのか。解らない。全てかもしれない。ただ、少なくともアリスゼルは彼と―どうあっても、繋がりたい、のだろう。
「…ギィ、手ぇ出せ」
「手?」
 素直に差し出された大きな両手にアリスゼルは手にしたチューブからとろりとした液体を注ぐ。冷たいそれからは、僅かに甘い花の匂いがして、ギムレットは驚いたように眼を瞬いたが、次にアリスゼルが彼の太い首筋に抱きついたので、より一層驚いたようだった。アリスゼルは彼の片方の手首を掴んで、導く。即ち、己の後孔、に。男性同士での性行為における、つまりは性交の場所に。まあ、案の定、そんなことは知らなかったであろう、彼は、自分の指先が触れた箇所にあからさまに吃驚したようだった。彼の銀色の髪を撫でながら、アリスゼルは、声を落とす。
「安心しろ。最近は快便だ」
「い、いや、アリスゼル…、」
「嫌なのか?」
「え、」
「止めるか?」
 彼の頭を抱きしめたまま、そう問う。沈黙は一瞬。すぐに彼はふるりと首を振った。少し驚いた、という真剣な声が聞こえて、アリスゼルは苦笑した。するりとその声に擦り寄って、次に何をして良いかも解らぬ彼の耳元で、ただ、言う。まずは指だけ、と。彼は、その言葉の意を正確に汲んで、厳かに頷くと、慎重に太い指先でアリスゼルの後孔を撫でる。ぬるりと濡れた質感が今まで自分でも触れたことない場所を這う感覚に、アリスゼルはぴくん、と全身を震わせた。無論、本能的な嫌悪感はある。だが、施しているのが彼かと思えば、本能よりも愛しさの方が勝った。
 指の先が、ぬる、と後孔の奥へと少し入り込む。潤滑剤の滑りを借りて、異物が自分の中に飲み込まれていく、という感覚は。何とも形容しがたく、それでいて気持ち良いような、気持ち悪いような、奇妙な感じだった。あまり、痛みはない。ただ、ゆっくりと、信じられないぐらいゆっくりと、ギムレットの指先がアリスゼルの中へと侵入していく。蹂躙ではない。あくまで傷つけることないように、施される愛撫。指先が狭い内部を擦り上げ、くちゅ、と音を立てる。何だかそう頼んでいるのは自分だというのに、物足りないような気になってきて、アリスゼルは彼の首筋に抱きつきながら、増やして、と囁く。大丈夫か、と気遣う彼の声に、その髪に口付けることで答えた。
 指が増やされる。二本に、それから、三本に。
 どろりとした潤滑剤に塗れた三本の指が後孔から出し入れされる度に、アリスゼルはぴく、と身体を震わせるようになっていた。まだ、感覚は残っているが、それでもぐずりと腰から溶けるような倦怠感。始終、耳元に吹き込まれるギムレットの声も、それを助長しているような気がした。アリスゼル、と彼の声が呼ぶ度に、アリスゼルの中の、何かがとろりと崩れる。熱はすでに十分に育ち、彼の指先が内部を軽く引っ掻くと、んっ、と切ない声が勝手に喉の奥から零れ落ちた。初めは気持ち良いのか悪いのか、いまいち解らなかった感覚が時を経るに連れて、明確になっていく。これは、気持ち良い。羞恥よりも何よりも、悦楽に従順なアリスゼルの身体は、三本も彼の指先を飲み込んで、くちくちと卑猥な音を立てている。
「アリスゼル…、」
 ずっとアリスゼルの言う通りに愛撫を施してくれている銀色の髪に何度も口付けながら、彼の声も熱を帯びていることを知る。ちろりと視線を落とせば、すでに起ちあがった自分の性器と同時に、彼の、まあ、何と言うか、逞しい、というか、立派というか、規格外サイズの性器も眼に入り。流石に自分ばかり快楽を貪るのは気が引けてきて、もう良いから、と言い落とした。それに頷いた彼が頷くと同時に、くちゅりと三本の指が引き抜かれる。唐突になくなった喪失感と触れた冷たい空気に、アリスゼルはもう一度震えてみせた。
「アリスゼル、」
「ん、有難うな、ギィ。よく先にイかなかった」
「それは…、」
 よしよしと頭を撫でながら言うと彼は何故か少し躊躇うように言い淀んだ後、しばらく視線を明後日の方向に外したが、結局、蒼い瞳を真剣にアリスゼルに合わせた。何事かと瞬きをする赤に、年若い獣は真摯に告げる。
「それは、私は、交尾は初めてなのだから、最初は、アリスゼルが、良い、と思い…、」
 言ってる内に羞恥に襲われたのか語尾が細くなっていく彼に、アリスゼルは思わず、は?と聞き返す。初めて、か?いや、交尾が初めてなのは想定内だが、しかし、ひょっとして、ひょっとすると、射精も、初めて、なのか?確かに有り得ないことではない。ギムレットの年齢をアリスゼルより多少下だと想定したとしても、獣は人のようにマスタベーションに耽るなんてことはないだろうし、だとしたらまあ、初めての交尾が初めての射精でも、何ら可笑しくはないだろう。不自然では、ない。いや、それにしても。まあ、確かに理屈ではそうなるのだが。冗談でもなく、笑い話でもなく、言っている本人も真剣そのものなのだが、しかし、何となく、これはちょっと―。
「すまん、可笑しい」
「………………アリスゼル、」
 笑いを噛み殺しながら、彼の額に一つキスを落とす。憮然とした表情の彼は、それでも眼を細めて大人しくそれを受け、アリスゼルはもう一度彼の瞼にキスを落とすと、するりと彼の腕の中から抜け出した。そして、ベッドの上で四足を付く。今更、抵抗感もあまりなかった。何しろ、アリスゼルの愛する恋人はけだものにつき、初めてセックスがバックというのも、ある意味正常位、ということになるだろう。腰を高く突き上げて、アリスゼルは肩越しにギムレットを振り返る。
「こら、てめぇ人に何時までこんな格好させんだ」
 寒ぃ、という言葉に彼は漸く我に返ったのか、ふるりと頭を振るうと、一瞬でその姿を獣のそれに変える。巨躯の狼。恐ろしくない訳などない。刀さえ握れば恐怖心など脳内中枢から吹っ飛ぶアリスゼルではあるが、これは戦いではないのだ。鉄刀はいらない。愛し合う行為に必要なのは、ただ、愛おしく相手を想う、こころ、だけ。銀色の毛皮が全身でアリスゼルの上へと覆いかぶさってくる。太い足がアリスゼルの肩の横にずしりと重みを乗せ、腹側の柔らかい毛皮が背中に触れて、硬く屹立した規格外の性器がぴたり、と存分に解された後孔に当てられる。
 アリスゼル、と擦り寄る獣の声が吹き込まれ。
 反射的に頷けば。
 一瞬の後に、刃でも突き立てられたのではないかという痛み。
 強く唇を噛んで、必死で悲鳴を押し殺す。熱された肉の塊がぐちゅ、とアリスゼルの内部を切り開いて押し入っていく。それは、快感というには程遠く、ほとんど拷問に近かった。ただ、押し寄せる酷い圧迫感に、痛みという意外にない痛み。ベッドシーツを握り締めれば、破けそうなほど皺が寄り、冷たい汗が首筋から落ちて、濡れた沁みを作る。ぐちゅり、と侵攻する獣の性器に焼かれるような錯覚を見ながら、アリスゼルは必死で痛みをやり過ごそうとする。何とか彼にはその苦痛を悟らせたくなかったのだが、何しろ背後からアリスゼルを貫いている張本人である。それに気付かぬ訳がない。気遣わしげな声が何度も囁かれ、彼の舌がぺろりぺろりと背中から首筋までを舐める。やめるか、とつい先程のアリスゼルのように言ってくれまでした彼に、首を振る。それでは、あまりにも。あまりにも、酷い。
 永遠に続くかと思われたのは時間にしてはほんの数分の出来事だっただろう。漸く、彼の動きが止まり、ぴったりと汗で濡れた背中に毛皮が張り付く。大きく息を吐けば、露骨に内部にある彼の性器を意識してしまい、アリスゼルは軽く悲鳴をあげた。彼の声が呼ぶ。大丈夫か、という声に、必死で呼吸を整え、答えると、彼がまた、呼んだ。
「痛いのか?辛いか?」
「…痛ぇし、辛ぇけど、大丈夫、だ…」
「………すまない…」
「んな声出すなよ…馬鹿、」
 情けない声色に薄く笑ってみせる。ギムレットが悪い訳ではないのだ。アリスゼルが望み、彼が望み、そうして二人でこうして、望みを叶える為に一緒になる。確かに今は多少辛いが、痛みもいずれ慣れるだろう。確かに非常に痛いし、この状況は非常に辛いのだが、しかし、嫌ではない。繋がっている。確かに、一緒に。ギムレットの初めての相手は確かにアリスゼルで、アリスゼルの初めての相手は確かにギムレット。その事実が純粋に嬉しい。あまり笑うと辛いので出来ないが、アリスゼルは静かに口元だけで微笑んで見せた。
「アリスゼル、」
 彼の声が、物凄く間近で聞こえた。何事かと思う間もなく、べろりと濡れた熱に耳を。よりにもよって、耳を。耳朶から耳の先までの常人より長い距離を一息で、舐め上げられた。途端。途端、一瞬で何もかもが、吹っ飛ぶ。それはある種の衝撃で、それはある種の―確かな快感。自分が耳に弱いことは知っていたが、否、端から見て丸解りだが、いや、しかしそれでも、こんな強烈な快感を感じたことは、今までに一度だって、ない、のに。初めて、初めて、アリスゼルは耳への愛撫で射精するかと思った。一瞬。かなり真剣に、そう、考えた。
「おま、お前、なに、舐め―!?」
「…気持ち良かったのか、アリスゼル?」
「な、んな、わけね、あ、んん!」
 調子に乗った獣がもう一度耳を舐める。嗚呼、駄目だ。一度では偶然で片付いたかもしれないが二度目とあっては。変な声が喉の奥から零れる。それが聴き慣れた男娼の嬌声と同じ類のものだとは俄かに信じがたかったが、しかし、ばさりと嬉しそうに揺れる獣の尻尾の気配が解ってしまったからには、嗚呼、もう、何と言うか、好きにしてくれ。
「アリスゼル、」
「ん、も、良いぞ、動いて」
 アリスゼル、ともう一度囁かれる声と共にゆっくりと獣の律動が始まる。ぐちゅ、と更に奥まった場所を抉るような。ゆっくりとした腰の動きは痛みも確かに伴ったが、それ以上に耳に施される愛撫と共に、悦楽も得られるようになっていく。くちゅ、ずちゅ、と耳でも繋がっているような錯覚。ずるりと彼の性器がアリスゼルの内部を擦り上げ、耳朶を舐め取り、嬌声が零れる。硬い性器でずくんと重たい突き上げがくる度に、身体ごと揺すられながら、アリスゼルは己の性器にも手を伸ばした。痛みの為に萎えていたそれはすでに半分以上、熱を戻しており、自らそれを慰めながら、アリスゼルは腰を動かした。脳内麻薬のせいか、痛みが徐々に消えていく。ただ、もっと、欲しい、と。熱を。それを。ギムレット、と彼を呼ぶ。返す言葉に。熱に。愛しいと。生理的な涙が、頬を伝い。もっと、と。
 熱っぽい吐息に浮かされるように。
 水音。匂い。快感。拘束。
「ん、ギィ、俺、も、イくぞ…っ?」
「ああ…ああ、私も…」
 愛撫。律動。悦楽。思考回路の麻痺。熱は、唐突に、弾ける。
 ぐいっとより一層奥に突立てられたと思った瞬間、アリスゼルは全身を震わせて吐精していた。ぶるりと指先まで痺れ、同時にぎゅうっと後孔に力が入って内部の彼を締め付けてしまう。その一瞬の後、ギムレットもアリスゼルの中に、熱を吐き出した。四肢に力が込められ、一緒に震える身体を抱きしめられながらの、交尾―セックス。ぽたぽたとアリスゼルの性器から零れる白い液体と、比べ物にならないぐらいの大量の同じものが中へも注がれる。イヌ科の吐精はそもそも長いと知っていたが、確かに、長い。ぎゅうと己を抱きしめる力は一向に弱まらず、中にも熱が溢れ出そうなぐらい吐き出されている。なんかこう、相手がイっている間にもう一回イく、とか出来そうだった。
 今のアリスゼルにはちょっと無理だが。
 長い長い絶頂はしばらく続き、漸くギムレットはずるりとアリスゼルの中に埋めていた己の性器を引き抜いた。それと同時にぼたりと音を立てそうなほど濃い精液が、後孔から零れ落ちる。初めてだ、というのに過言はなかったらしく、否、それにしたって出しすぎだろうというぐらいの量に頬を引き攣らせながらも、アリスゼルは疲労感に苛まれるまま、シーツへと崩れ落ちた。倦怠感に疲労感に、それから、途方もない幸福感に、達成感。たまらなく、気持ちよかった。間違いなく、今までで最高のセックス。何度も名前を呼ばれて、何度も抱きしめられて、壊れ物でも扱うように、抱かれた。
「アリスゼル、」
 近寄ってきた恋人にぺろぺろと顔を舐められる。愛撫というより気遣うような、嬉しさを隠し切れない表現のようなそれに、笑って応えながらも、アリスゼルはその喉を撫でてやった。嬉しい。一緒になれて。出会えて。好き合って。恋人になって。
「アリスゼル、好きだよ。私は貴方を、愛している、誰よりも」
 そして、有難う―、と。
 そう、囁かれる言葉の愛しさに。
 ただ、今日という日の幸せに。
 ゆっくりとアリスゼルは、眼を細めた。


06/12/03

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