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結局のところ幸せになりたかったんだろ、パンプキンヘッド?

 それは不幸な事故だった。
 赤髪赤眼の古い友人が今日はハロウィンだろとそう律儀な性格でもないくせにかぼちゃのパイと巨大なジャックオランタンを持参したのが一時間前。アンティチークの帰還にあわせてお茶の時間にしようかと湯を沸かし始めたのが五分前。湯気を吐き出しながら揺れるケトルの気配に地下から二匹の大蛇が顔を覗かせたのがほんの三十秒前。戸棚の上に友人が勝手に置いたジャックオランタンが気になってしょうがない愛猫が堪らず前足でかぼちゃお化けをつついたのが五秒前。
 バランスを崩し、ごろんと転がり落ちたそれはゆっくりと空中を回転し、ちょうど見事ぴったり、ぬるりと鎌首を持ち上げようとした大蛇の弟の方の頭にはまった。
 妙な沈黙が辺りを支配した。
 有翼異形一人と猫一匹と蛇二匹は言い知れぬ緊張感から一言も発することができなかったし、大蛇の兄の方に至っては突如弟の頭が巨大なかぼちゃに変貌したことに驚きを隠せず口をあんぐりと開いたまま固まっていた。
 その言い知れぬ静寂を破ったのは他ならぬパンプキンヘッド。
「うおおおおなんだこれ取れない!見えない!聞こえねええ!ネーヴェー!何これ何これー!」
 ちょうど視界が塞がれてパニックに陥る大蛇を慌てて落ち着かせにかかるネーヴェをよそにふふっという可憐な笑い声が落ちる。見れば愛猫は堪えきれぬ笑みを耐えるように戸棚の上で丸い肩を揺らしていた。「弟」の一大事に笑ってはならぬとどうにか我慢しているのだろうが、どうやったって隠しきれていない。それに兄の方はもっと露骨に辛辣だった。
「ぶっ、はははは!お前、かぼちゃ…かぼちゃ頭…っ!ジャックオランタン…!!はははは!」
「な、んだと…!!」
 兄の容赦のない笑い声に一瞬で我に返った弟が怒りに任せて勢い良く頭を振るう。止める暇もなかった。遠心力によって今度こそスポーン!と勢いよく抜けたジャックオランタンはガン!と一回天井にぶち当たり、けれどもひび一つ入ることのないまま今度は兄の頭にちょうど見事ぴったりはまった。
 はまってしまった。
 再びあの静寂が時を支配する。一度ならず二度までも。しかし、次にその冷えた空気を割り砕いたのはこの場にいる誰もが愛しさを禁じ得ない朗らかで控えめな声。
「お前たちは…本当…」
 整った顔立ちをふにゃりと崩して笑うネーヴェは見惚れるほどに柔らかで美しく、双子の大蛇も猫も思わず顔を見合わせたかと思えば誰ともなく笑みをこぼす。
 ハロウィンの午後、商店街の片隅にある小さな獣商。重なる楽しげな声に悪霊なんて寄り付くはずもなく、そこには確かな幸福の形があった。


2015.10.27

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