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僕らはジャックにはならねどもかぼちゃのパイは美味しくいただく

 気がつけばキッチンの片隅でそれは異質な存在感を放っていた。鮮やかなオレンジ、大きさは子供の頭よりも更に大きく、大の大人がどうにか両手で抱えられるくらいだろうか。これほど巨大なかぼちゃをギムレットは見たことがなかった。いや、本当にこれはかぼちゃなのだろうか。それにはまるで目のように三角形の穴が二つあり、まるで口のようにギザギザと横に開いた穴が一つあった。かぼちゃというよりかは頭である。穴の奥が暗い闇として見通せるところを見ると中は空洞になっているようだ。では中身はどこへいったのか。
 興味深そうにジャックオランタンの周囲を尾を振り振り歩き回り、ときに匂いを嗅いだり、ときに前足で触れてみたりしている恋人を視界の隅にずっと捉えていたアリスゼルは堪らず声をかける。
「ギィ、そいつ死んでるから動かないぞ」
「そうなのか。これは元々生き物か」
「生き物っていうか…お化け?」
「お化け?」
 鸚鵡返しした獣は不思議そうにこちらを見る。銀色の毛並みは相変わらずつやつやと陽の光に輝き、アイスブルーの瞳は純粋な光を宿していた。
「お化けとはなんだ、アリスゼル」
「んー死んだあとの人間?の魂?」
「ならば私やアリスゼルはお化けとやらにはならないということか」
「うーん、どうだろうな…」
 そんな会話をぽつぽつと交わしているうちに年代物のオーブンがチーンと鳴った。おっと思わず声をあげたアリスゼルはミトンを手にいそいそと高熱の扉を開く。その途端、部屋中に溢れ出すのはたっぷりのバターと甘いかぼちゃの香り。
「上出来」
「それはなんだアリスゼル」
「パンプキンパイ」
「なるほど。美味いのか」
「美味い」
 アリスゼルの言葉を聞いて獣の尾は期待に揺れる。おそらくあの世から戻ってくる悪霊を追い払うための人間の習わしもその悪霊たちの代表格であるジャックオランタンも知らないだろう彼に例の言葉を教えてやろうか。この台詞一つで誰もが甘い菓子をくれる魔法の言葉を、こんがりキツネ色をしたパイを手にアリスゼルは高らかに唱えた。
「トリックオアトリート!」


2015.10.27

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