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落花雨の銀狐1
 雨が降っていた。白く煙るような雨だ。細かい雫が幾筋も天上から降り注ぎ、土も木々も草も花も人さえも濡らす。降り注ぐ雨音には国境も街も関係なかった。それは、曇天に覆い尽くされた斉(サイ)の国、王都も例外ではない。立ち並ぶ蘇 […](更新日:2016月9月2日)
落花雨の銀狐2
 宴が催されていた。  遊戯台の設置された広間には妓楼・銅屋に莫大な銭を落とす上客が何十人。その相手として、酌をし、舞を踊り、楽を弾き鳴らす女はそれよりももっと多い。華やかな花魁衣装に華やかな髪飾り。焚き染めた香の匂いは […](更新日:2016月9月4日)
落花雨の銀狐3
 本作品は性描写を含みます   通された部屋は上客用のようだった。一つ離れに整えられた部屋は広く、暖を取るための火鉢がちろりちろりと燃えている。瓦屋根を叩くのは水の音。今日もまだ細かい細かい雨が降り続いているようだった。 […](更新日:2016月9月4日)
落花雨の銀狐4
 風が吹く。新緑を打ち鳴らす爽やかな涼風の余韻に、山の全てが応えるかのようにざわめく。白水晶が所々に見え、豊かな山肌には美しい花が咲き、清流の流れが緩やかな音を立てる麗峰の名は幽蕾山。神仙が降りし場所だからこその美麗故、 […](更新日:2016月9月4日)
花紡ぎ人
 美しく整えられた庭先だった。もう牡丹の花弁は散ってしまったが、それに変わるように初夏の花が咲く。山躑躅に夏椿、額紫陽花の密やかな花が開くかと思えば、山脈を伝って流れる銀色の小川の畔には花菖蒲が咲く。もうそろそろ梔子の花 […](更新日:2016月9月19日)
蒼天に妖の唄
 神仙は基本的に殺生御法度。当然のことながら、己が口にするものでも生き物を殺してはならぬということになっている。しかしわざわざ定められずとも、仙となれば誰もが生臭を口に入れるのを自然と躊躇うものらしい。天羽は以前は好物だ […](更新日:2016月9月19日)
月瑯々
 大きな望月が空にぽっかりと浮かんでいる。  紺色の夜空に砂金のように散りばめられた星と、並々ならぬ存在感を宿して浮かぶまん丸の月。今宵は満月。冴え冴えと射るような白金の光は常日頃よりも明るく、薄い雲から天羽の眼前に広が […](更新日:2016月9月19日)
巡り紅葉の刻を
 白い半紙を小鳥が留まった青銅の文鎮で押さえると、天羽は真っ直ぐに背筋を伸ばし、真剣な面持ちで筆を走らせた。留紺の着流しに絞り染めの羽織を肩から掛けるに留め、文机の上には硯と墨と共に古ぼけた本が一冊。恐らく長い間湿気の溜 […](更新日:2016月9月19日)
白雪の夢見る頃に
 寒椿が咲く。季節は大寒。比較的温暖な地域に属する幽蕾山霞晶洞にも僅かながら雪が積もる朝のある時期だ。  四季を計算しつくして整えられた庭は無論、春の華やかさを待って、静かに沈黙している草木が多いのだが、それでも、艶やか […](更新日:2016月9月19日)
泡沫の童遊び
 神仙には風呂に入るという習慣がない。  正確には風呂に入る必要がないと言うべきだろうか。そもそも神仙とは生物の理を超越した存在であり、その気になれば食事も睡眠も何ら摂ることなく、数十年数百年と命を繋いでいくことができる […](更新日:2016月9月19日)
蜜色の月酔い
 遠くから楽の音が聞こえてくる。高らかに弦を爪弾くのは宮廷にお抱えの一級の楽師たちであろう。性能の良い鼻と耳にはよく届く。宮廷人たちの笑い声と杯を打ち鳴らす音、豪勢な食事、芳醇な酒。席を賑わすのは美しく着飾った女たち。紅 […](更新日:2016月9月19日)
嵐の夜に~落花雨の銀狐編~
 瓦屋根を雫が叩く音がする。重たい雨戸を引き開ければ、生ぬるい風が顔に吹き付けた。嵐が来るのかも知れない。降りしきる霧のような飛沫を顔に受けながら、女はぼんやりと曇天を見上げた。  雨が降れば思い出す。まだ苦界に身を沈め […](更新日:2016月9月19日)
刀剣乱舞 審神者覚書
神山 火焔(かみやま かえん)  蠱毒を生業とする神山家の次女。冷静沈着で戦ごとに長け、何よりも戦場を愛する。初鍛刀で天下五剣を神降ろしし、十年に一度の逸材と評されるが本人は周囲の評価などどこ吹く風で、今日も刀剣たちとと […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 ぬばたまの夜に三日月
 口唇が触れ合おうかという距離である。  先程まで縁側でゆるりと月を眺めていたはずの視界いっぱいに映るのは女の酷く整った顔立ち。白皙の肌には傷一つなく、戦場とはおおよそ縁もゆかりもなさそうなのに、いざ砂埃と血臭にまみれた […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 流転の浅葱
 天高く鳶が旋回しながら鳴いている。空気は程良く乾いて青く、本丸の庭にむせ返るように咲き乱れていた桜の花も散って久しい。日に日に勢いを増す草木の勢いは衰えることを知らず、池から蛙の声が聞こえてくるまであとほんの少しと言っ […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 鶴は夜明け前に二度鳴く
 生ぬるい泥のような闇の中でぽつりぽつりと何かが明滅している。瞼が重く、腕も重く、脚も重く、何もかもが思い通りになりはしない。立たなくては、と心は急くのにままならない。背中を冷たい汗がつたうのは現実だろうか。ゆらりと頬を […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 蛇の道は蛇なればその先は地獄
「神山火焔(かみやま かえん)様ですね」  その声は決して疑問形ではなく、確証を得た上での念押しでしかなかった。生温かい風、腐臭、鉄錆の匂い。そういったものにまとわれつかれた女は鬱蒼と視線を落とす。脳裏にはただ一言油断と […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 業火の護り人
 夜露が草を濡らし、地を湿らせ、日が高い内は息を殺して身を潜めていた連中が真暗の闇から這い出してくる頃ー要するに丑三つ時である。本丸内は昼間とは打って変わって静まり返り、晩春のまだ桜も散り切らぬ時分では蛙の声も虫の音も聞 […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 業火の護り人と鶴の寝床
「こいつぁ驚いた」  聞き慣れた台詞が耳に届き、自身が眠っていたことにようやく気付く。重たい瞼を押し上げて、霞んだ視界の中で目を凝らせば、暗闇の中でもはっきりと輝く白い衣装。髪も肌も夜着さえも純白。それ以外の色の一切を拒 […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 誰ぞ彼と闇に吠えれば
 京都市中は深い夜の帳が落ちてから数刻も過ぎ、濃密な静寂の中にあった。数え切れないほど立ち並んだ長屋の戸は固く閉ざされて虫の入り込む隙間もなく、溝板の上を時折駆け抜けるのは鼠ばかりで人の気配は全く感じられない。湿った夜風 […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 酔うて恋うて咲けや合歓花
 しっとりと濡れた夜気は山を、森を、屋敷を、眠りに就いた厩を、橋の欄干を、芽吹いたばかりの銀色の芽を包み込み、密やかに音を奪い取る。薄い霞は視界をぼやけさせて眠りを誘い、そよりとも吹かぬ風は黙して頭を垂れた。微かな白光は […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 人狼審神者・尾上暁良は牙を剥かない
 皐月の風が若草の匂いを運び、葉桜の梢が揺れる度に斑の影がちらつく。日差しは頂点から少し傾き、忙しなく鳴き交わしていた小鳥の群れもどこかへと飛び去ってしまった。道場からは鍛錬に汗を流す者たちの威勢のいい声が時折聞こえ、馬 […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 夜天に放つ
「次郎ちゃん、一緒に飲んでいいか?」  そう言いながら彼がひょっこりと顔を覗かせるのは決まってひとり酒のときだった。枝葉を広げた桐の花や群青色の空に引っかかった月を肴に飲んでいるとまるで見計らったかのように絶妙な間合いで […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 大蛇審神者・東条姉妹は手を出さない
 生まれて初めて二つのまなこで見たものを人間はおぼえているものなのだろうか。  御手杵は寡聞にしてそれを知らず、それ故に自分の網膜というものに焼き付いたその光景が特筆すべきものなのかわからない。ただ、その日のことは付喪神 […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 今夏、蛇の目を思ふ
 大気を鳴動させる勢いで蝉が鳴いている。東の空より灼熱の太陽が昇り、熱波を放出し続けること早数時間。夜明け前から早々と鳴き出した虫の合唱はいよいよ激しくなり、照りつける日差しは本丸御殿の瓦屋根をことごとく焼き、随所に陽炎 […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 角持ち審神者・金城羊は世界を恨まない
 この本丸というものが正確に「どこ」にあるのか蛍丸は知らない。  わかっているのはこの場所は時代と時代の狭間に位置するということ。空間を歪ませ歴史を改変しようとするものたちを追い、食い止めるために作られた刀剣たちの居城は […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 魔女審神者・雪水薫子は愛するための余白を持たない
「江雪、江雪左文字」  小鳥の囀るような声が江雪を呼ぶ。庭先で盛りの紫陽花を一花一花慈しむように撫でていた袈裟姿の刀剣が振り返る。  視線の先には少女がいた。  時代が数百年は遡ったかのような平山城の本丸御殿に似つかわし […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 新米審神者・神山遊馬は近づかない
 その本丸はそれはそれは至って平凡だった。  主は物腰穏やかな年若い男性で没個性の灰鼠色の袴に顔上半分を覆う白狐の面を着けている以外に特筆すべきことは何もなかった。口調は柔らかく何事も強く主張することはなく、陣触れでさえ […](更新日:2016月10月15日)
刀剣乱舞 あなたのいる明日が来る
 盛んに鳥が鳴き交わす声で目が覚める。虚ろな視界は寝起きゆえかほろほろと霞み、墨の匂いは思い出したように鼻先をかすめた。行灯の火はとうに消え、青白い光が障子の向こう側から差し込んでは格子模様の薄い影を畳の上に残している。 […](更新日:2016月10月15日)
1 首尾の松
 威圧的な電子音は一向に鳴り止む気配がない。  尾神静牙(おがみ しずが)は鈍い呻き声をあげると寝返りを打った。百九十を超える長躯が沈む布団は昨日の内に誰かが(十中八九住み込みのお手伝いである佳代さんだが)干してくれたお […](更新日:2016月10月16日)
2 引手茶屋
 尾神家前当主であり静牙の祖父である尾神清牙(おがみ せいが)は正真正銘尾神一族の偉大な「親父さん」であった。  祖父は主に女性と賭け事における奔放さで祖母や母を散々に泣かせてはいたが、仁義に厚く弱きを助け強きを挫く生き […](更新日:2016月10月16日)
3 初会
 本作品は性描写を含みます   徐々に傾いてきた西からの陽光が廓の町並みを焼き尽くすように差していた。  前を行く小柄な男は晩夏にも関わらず榛色の羽織をまとい、まだ日暮れ前だというのに茶屋の屋号が入った箱提灯を提げている […](更新日:2016月10月16日)
4 裏を返す
 夢を見ていた。果てのない闇の中は茫洋とした空気に満たされ寒くもなければ温かくもない。静牙はそんな空間に上も下もわからぬままぽっかりと浮いている。ぼんやりと見下ろした自分の身体は見慣れた人間のもので、なぜか一糸もまとって […](更新日:2016月10月16日)
5 馴染み(前)
 信号が青に変わる。ほんの一瞬無人となるスクランブル交差点にはすぐさま歩行者が流れ込み、人波に押し出されるような形で静牙もスニーカーの足を路上のストライプへと踏み出した。大学から自宅への通学経路において唯一の大通りは人と […](更新日:2016月10月16日)
6 馴染み(後)
 本作品は性描写を含みます   宵の喧騒、すれ違う人々は憔悴しきった現世の男を怪訝な目で見ながらも声をかけることはしない。あの世もこの世もおんなじだ。皆、己の安寧を害してまで人と関わろうなんざしやしない。「この世」に楽土 […](更新日:2016月10月16日)
7 心中
 目が覚めるとまだ部屋の中は薄い闇が支配していた。どことなく気怠い身体を引き起こしながら記憶を辿る過程で己が一糸まとわぬ姿のまま畳の上で寝ていたことに気付く。見下ろした手は確かに人間のもので、触れた顔は確かに人間のもの。 […](更新日:2016月10月16日)
「暗夜戀心中」後記
「暗夜戀心中」完結までお付き合いいただきましてありがとうございます! 普段完結した作品は後日談として短編をアップしていくことが多いのですが(今回もそうする予定ではありますが)、諸々語り足りないところもあるので後記という形 […](更新日:2016月10月16日)
狂い廓の猩々緋
 この国にはかつて公娼制度があり、遊廓と呼ばれた公娼街が各地に点在していた。  錦の花は夜毎咲くのかはたまた散るのか。女は豪奢な衣装を纏い、濡れ羽色の髪に色とりどりの簪並べ、白粉はたいて紅を差し、妖艶な笑みを浮かべては吸 […](更新日:2016月10月20日)
ファックユー!シスター!
 八塚 カケル(やつか かける)と八塚 ノボリ(やつか のぼり)は外見のよく似た姉妹である。外見は、とわざわざ言い添えたのは無論、外見以外の性格、言動、食の好み、ファッションに至るまで何もかも似ていないからだ。姉妹と初対 […](更新日:2016月10月20日)
牛鍋リップライナー
 金城班と西加班の事務室は警視庁舎内の二階、廊下を挟んで斜向かいの位置にある。ほぼ同じ業務を行っているのだから、同室でも良さそうなものだが何故か二班の空間は明確に分けられている。如何なる理由か、三輪は知らない。とりたてて […](更新日:2016月10月20日)
現代猿蟹合戦 延長十回裏表
 古今東西、蟹と言うのはなかなかに惨めな生き物だと思う。  昔話だけにおいても大抵愚鈍に描かれ、ずる賢い何かに騙され、何故か大した悪事も働いていないのに痛い目に合っている。不条理だ。実に恵まれぬ人生だ。長い長い人生ー否、 […](更新日:2016月10月20日)
冷たい肋骨の余剰
 もし、と控えめに戸が叩かれたのは、廓の大半が眠りに落ちた丑三つ時のことであった。  耳聡い家主が異音に気付いたのは、二度目の申し出のとき。まばたきを繰り返すと、夜目の効く双眸は瞬く間に視界を取り戻す。ぼんやりと浮かび上 […](更新日:2016月10月20日)
浮世の弾みにララバイを
「…以上が今回の任務の概要よ。理解できたかしら?」  黒塗りの高級車が帝都の裏路地をテールランプを転がしながら疾走する。ハンドルを握るのはブロンドの髪にグリーンの瞳をした異国の女。ビルヂングの窓から漏れる灯り、対向車のヘ […](更新日:2016月10月20日)
斜陽猫又花魁道中
 弥生朔日。裏吉原に「春」が来る。  早朝から植木職人達が荷車で運び込んだ桜の若木は昼時までには仲の町にずらりと整列した。根元には山吹を植え込み、青竹の柵で周囲を囲ってやれば、人手のかかる準備はほぼ終わりといっていい。あ […](更新日:2016月10月20日)
気が触れればこの先狂奔の地獄なれど
 せり上がってくる吐き気は喉を焼き、饐えた匂いをさせながら口内を逆流する。蛇口の銀色はまるで無機質な爬虫類の背骨のように光り、掴んだ洗面台の縁は柔らかくも冷え切っていた。明滅する蛍光灯が容赦なく網膜を焼く。指先は青白く、 […](更新日:2016月10月20日)
火照り鬼灯
 仲の町から西河岸へと伸びる揚屋町は吉原における商人と職人の町だ。通りの中央に渡された溝板に一定間隔で置かれた用水桶やたそや行灯は他の廓内の町と変わらないが立ち並ぶ店に妓楼は一軒も見当たらない。華やかな仲の町とは一線を画 […](更新日:2016月10月20日)
ひゅうどろどろ
 それは表座敷の床の間に常にひっそりと掛かっていた。描かれた紫陽花は精緻ではあったが特筆すべきところは特になく、ひょっとしたら宴席で気持ち良く酒を呷って女を待つ遊客のほとんどがそこに掛け軸があること自体気付かずに妓楼を後 […](更新日:2016月10月20日)
人の口に戸は立てられぬ
 規模の大きいほとんどの妓楼はその建屋内に湯殿を備えていたが、女郎たちはしばしば気分転換も兼ねて町中の湯屋を利用した。裏吉原では特に朝方、弓に矢を交えた洒落看板を掲げた湯屋の暖簾が出入りする人々で忙しなくはためく。  芦 […](更新日:2016月10月20日)
菩提やまめの問心票〜A村骨抜き殺人事件〜
 こうべを垂れる稲穂は黄金色に輝き、間もなく迎えようとしている収穫の季節には似つかわしくない色がその農機具小屋の一面にはまぶされていた。赤。赤、赤、赤、赤、赤。寸分の乱れも許さぬ赤という赤が小さな小屋の隅々まで塗りつけた […](更新日:2016月10月20日)
八脚狂言挿話
「あれ、園山は?」  その日、曲がりなりにも班長として自身が統率をとる警視庁第三特殊犯捜査特殊能力対策係西加班の事務所へと戻ってきた班長こと西加仁子が目にしたのはいつも通りの乱雑とした室内と花札に興じる二人の男だった。 […](更新日:2016月10月20日)
総角一条全仕事 一ツ橋目・丑三つ時にその橋渡るべからず
 品川宿の街道沿いを一人の虚無僧が歩いていた。天蓋と呼ばれる深編笠をすっぽりと頭からかぶり、小柄な身体を黒い小袖と黒い袈裟で包んでいる。腰から尺八と一振りの刀を提げて歩く姿は闇夜から抜け出し闇夜へと溶けるようだった。時折 […](更新日:2016月10月20日)
人骨にて八重垣作る所業なれども
 湿った風の吹く帝都の夜、丑三つ時の闇はビルヂングの隙間を上書きも出来ない黒色で塗りつぶし、野良犬さえも寄りつかない。煌々と輝いて通りを照らしているはずの街灯はガスの匂いをわずかに残して沈黙したまま背景に同化していた。 […](更新日:2016月10月20日)
ネクロマンティック劇場、閉幕
 師匠も走る師走の年の瀬、一年の終わりと一年の始まりというこれ以上ないハレの日を目前に控えた時節にスッと差し込まれた異国の聖人の生誕祭は思いの外素早くこの国に馴染んだ。その理由の一端は街を彩る浮ついた雰囲気を後押しする都 […](更新日:2016月10月20日)
信仰を食らう獣
 全なる父、純潔の母、我らが兄弟。  月明かりの差し込む祭壇で微笑むマリア像の前に立つは一人の修道女。禁欲的な衣装に若い肉体を包み、指を組んで祈りを捧げる姿は哀れな仔羊に見えただろう。けれど彼女は何にも絶望していない。女 […](更新日:2016月10月20日)
あなたのとなりの大妖怪~男子高校生柴田恭一の視界~
 欧州から見て東に位置するこの小国は資本主義経済に傾倒し人間以外のものをことごとく排除してきた諸国を尻目に、未だ人ならざるものと人が同居するファンタジーアイランドとして世に広く知られている。  どれほどガス燈が灯ろうと、 […](更新日:2016月10月20日)
金銀二角揃いであれど道はなく
 午前十一時四十二分、日比谷警視庁舎二階南西廊下総務局付近。  最悪の邂逅はここで起こった。  常日頃は柔和な態度を崩さない上司の雰囲気がみるみるうちに硬化していくのを肌で感じた西加仁子は密やかに息を吐く。隣に立つ鉄壁の […](更新日:2016月10月20日)
淡々日記〜東西付喪神絵巻〜
 今年は空梅雨でろくすっぽ雨も降らぬまま、季節は移ろってしまった。  気温の右肩上がりの勢いは凄まじく、いつの間にか現れたけたたましい蝉の鳴き声とともになだれ込むように盛夏へと突入した。廓をぐるりと囲む高い塀の向こうに広 […](更新日:2016月10月20日)
溝より内にて世はすべて
 じりじりと焼けつくような暑さもようやく少しはやわらいでこようかという夕暮れ時。裏吉原では仕事始めに備え、そこかしこから三味線の音がちらほらと聞こえ、文を抱いた禿が早足で姐さんの元へと急げば、若い衆は見世から飛び出して引 […](更新日:2016月10月20日)
鬼とモンブランと私
「まるで別物のようだけど、実際は茶の木の茎や葉を異なる製法で加工したものに過ぎないんだよ。つまりこの国の代名詞ともいうべき国民食…いや国民飲料である緑茶も隣国の烏龍茶もそしてこの紅茶も元は同じ原料からできているということ […](更新日:2016月10月20日)
近所のラーメン屋「満願」
 「満願」は八塚姉妹の住むマンションから徒歩三分の好立地に位置する極めて平凡なラーメン店である。赤のれん、立ち昇る湯気、曇り硝子の引き戸、張り紙には「大盛り無料」、黒いティシャツに黒いエプロンを締めた強面の大将、営業時間 […](更新日:2016月10月20日)
八槍演舞
 長大な土壁に囲まれた昔ながらの庄屋屋敷といった風情の家屋は帝都から電車で一時間あまりの場所にあった。とは言っても今は最早住まう人のいなくなって久しいあばら屋である。雑草が伸び放題の庭は風が吹く度に波のような音を立て、破 […](更新日:2016月10月20日)
現代帝都主要人別改帳
※本資料は帝都に住まう妖怪・半妖たちの所属組織や来歴を簡易に記載したものであり、軽微なネタばれを含みます。 警視庁第三特殊犯捜査 特殊能力対策係 - 斎木 銀色 (いつき ぎんいろ) 特殊能力対策係 係長。銀髪。本性は鬼 […](更新日:2016月10月20日)
踏みつけたその柔らかい足の裏
 弥生も半ばの冴えた空気が窓を貫いて部屋に押し入ってくる。  灯りのない六畳間は日に焼けた畳の掠れた匂いしかなく、テレビの上に降り積もった埃が尚更郷愁を誘った。古ぼけたブラウン管はアパートの大家から譲り受けた年代物でリモ […](更新日:2016月10月20日)
麦踏みのニーチェ
 煤けた青色が空一面に広がっていた。  晴れでもなく曇りでもない。中途半端な空模様が生ぬるい風を運んできては彼女の髪を徒に乱す。衣替え間近。黒のセーラー服に白いリボンタイ、紺のハイソックスにローファーを履いた未草麦(ひつ […](更新日:2016月10月20日)
無い物強請りのガールズトーク
 残酷な夢を見ていた。夢は願望を映す鏡と言うが、果たしてそれは真実だろうか。朧げな頭を振る。瞼の奥が酷く重たい。脳髄はどんよりと鈍って、どうも正常に機能する気配はない。  薄闇の中で安物の時計の秒針の音が規則的に鼓膜に響 […](更新日:2016月10月20日)
黄金鹿の花妻 一、女郎花
 淋の国の西南に位置する宗山(ソウザン)は広大な尾根を持つ国内屈指の名峰である。青々とした木々が立ち並び、小さな花々が咲き乱れ、美しい小川、豊かな湿地帯を幾つも抱き、その恵みは麓の村々へももたらされる。南方に延びる街道は […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 二、葛
 宗山の中腹、山頂からも麓の村からも離れた森の中に萩の生まれ育った家はある。広葉樹を切り開いた土地はそこだけぽっかりと日が差し、大きな陽だまりのように暖かい。薄暗い獣道から出てくると、いつもその明るさに目が眩みながらも心 […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 三、桔梗
 最初に弓を与えられたのは七つの時だった。  竹を削って歪曲させ、麻を拠った弦を張っただけの簡素な品ではあったが、幼い萩が目を輝かせて手に取るには充分だった。畜産がほとんど行われていないこの地域にとって、狩りは貴重な獣肉 […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 四、撫子
 どこか遠くで長く長く鳶が鳴き、峰々に反響してはこだまとなる。  長月が急ぐように過ぎ、神無月に入って数日。山は徐々に粧う準備を始め、遠目に見える高地は紅や黄へ日に日に変容していく。憎らしいほどの晴天に風は乾いて緩く、ど […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 五、芒
 重湯を煮る。米の香りは水に溶け、冷ややかな空気を少しだけ退けてくれる。ぽってりした汁をお椀によそり、温度を吸った木の器を両手で包んだ。こぼさぬように盆にのせると、匙を添える。起き上がれるのかどうかもわからない。ただ、何 […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 六、藤袴
 二羽の木菟が夜を通して連れてきた医師は非常に有能だった。  若白髪混じりの癖毛に大きな薬箱を担いだ男は手慣れた手つきで患者の脈を診て薬を飲ませ、一昼夜ほど滞在するとすぐに次の村へ向けて去って行った。無論、処置を受けた養 […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 七、萩
 踏み入れた足裏が落ちた葉に包まれてふわりと沈む。土の匂いが色濃く匂いたち、樹齢数百年を超す古い巨木の小道をゆく。肉厚な樹皮の合間を縫うように生い茂る羊歯はまだ鮮やかな緑色を掌のように広げている。古い森だった。萩も普段は […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 了
「もういいってば、ばあちゃん!」 「いけません!神仙様のところへそんな格好で行かせられますか!」  神無月吉日。山はすっかり秋の装いを深め、朝晩の空気は澄んで霜を伴う。だが、昼餉の時間を過ぎればまだ日差しは充分に温かく、 […](更新日:2016月10月23日)
野花に白露
 風が吹いては音もなく一葉、一葉。鮮やかな色彩は日毎色褪せ、なにもまとわぬ寒々しい枝が増えていく。時は進み、巡る季節に里山も街も森も例外はなく、それはここ、菘明山刹谷洞も同様である。  深山に深く根を張る大樹のごとき聖域 […](更新日:2016月10月23日)
春雷が呼ぶ
 彼方の空を這い回っていた遠雷が雨雲を伴って徐々に近づき、やがて降り始めた雨粒は未だ固く閉じた蕾や若芽を急かすかのように叩く。次第に強まる雨脚が白い帯のように山を撫でれば、一足早く顔を出した下萌えの上を幾度もすべり落ち、 […](更新日:2016月10月23日)
夜鳥の巣
 暗闇は二羽にとってなんの障害にもならなかった。 音もなく翻る翼は立ち並ぶ木立の隙間を危なげなく縫い、月が照らしあげる夜を鋭く柔く裂いて行く。耳元で鳴る風は若葉の匂いを含み、金色の瞳には静かに滑る影しか映らない。まるで先 […](更新日:2016月10月23日)
嵐の夜に(花散里の愛月)
 雷鳴が鳴り響く。その昔、龍は雷から生まれると聞いたことがあった。腹の底に振動する重低音を唸らせ、重たく垂れ込めた暗雲に紫電を走らせる様はなるほど、確かに龍に似ていなくもない。  格子窓に叩きつける雨粒を眺める。曇った玻 […](更新日:2016月10月23日)
嵐の夜に(宵々夜の花嵐)
 いよいよ嵐が近づいていた。うねる風に暴れる森の木々。叩きつける雨粒の勢いは増し、轟く雷鳴は闇夜を真昼のように明るく照らす。  けれども、山の斜面を穿つように造られた洞穴の宮にまでは自然の猛威は届かない。狭い入り口と幾つ […](更新日:2016月10月23日)
花散里の愛月1
斉の国 南方山中に翡翠の湖あり 名を浬鳴湖(りめいこ)という かの大池 国を潤す梁江(りょうこう)の源とされれば 篤く尊ばれ 龍神住まうとされる ―龍は人の嫁を取る― 古き言い伝えに従って 花と楽と生娘を捧ぐ祭 未だ 辺 […](更新日:2016月10月23日)
花散里の愛月2
 かたかたかたと、散里を乗せた籠が揺れる。  辺りを包むのは、龍神の加護を讃える楽の音と暗闇。大勢の人間が籠の周囲を一緒に歩いていくのが気配で解る。散里は籠の出入り口である御簾の向こうに覗く、微かな闇を眺めながらぼんやり […](更新日:2016月10月23日)
花散里の愛月3
 水の音が聞こえた。  だからというわけでは恐らくないのだろうが、散里はふと眼を覚ました。見慣れない天井。記憶が曖昧だが、しかし、それが自室の太い梁ではないということは解った。異様に天井までの距離が遠い。張り巡らされた梁 […](更新日:2016月10月23日)
花散里の愛月4
 日は二度沈み、二度昇った。部屋へとやって来るのは碧雲ばかりで、かの龍の姿はあれ以降散里は見ていない。何も訊かぬ散里に何を思ったのか、碧雲が御方は御勤めがお忙しいので御座います、と言って慰めてくれた。すぐに片付けられて此 […](更新日:2016月10月23日)
花散里の愛月5
 本作品は性描写を含みます   彼に抱きかかえられたまま、訪れたのは散里がこれまで過ごしていた奥宮とは違う場所だった。水晶の咲き誇る回廊を抜け、黒い大きな柱の間をくぐれば、巨大な石の門があって、それを人の姿をした龍が押し […](更新日:2016月10月23日)
天楽の昼下がり
 空を往く。一匹の漆黒の龍が水中を駆けると同様に、天空の海を駆けていた。巨躯が風を切る度に、雲が裂け、旋風が起こり、ふわりと涼しい風が散里の頬を撫でる。高い、高い、空の上。真っ直ぐ前を向けば、視界を埋め尽くすのは白い雲と […](更新日:2016月10月23日)
恋を知る花
「主は伴侶を貰い受けはしないのかえ?」  目の前で優雅に茶を啜っていた純銀の大狐を本性とする神仙は唐突にそう言った。  長い髪に真紅の瞳を有する彼は、幽蕾山霞晶洞が主、銀紗羅真君。かつて袁王が三世の世を荒らしまわった折に […](更新日:2016月10月23日)
翡翠之薫風
 蓮崋山玲央洞は浬鳴湖が中心に位置する。  標高こそ低いものの、その周囲を莫大な水量を湛える翡翠色の湖に囲まれ、更に洞への入り口である大門を水中に設けることにより、神域としての必要不可欠な清浄さを限りなく保ち続けている。 […](更新日:2016月10月23日)
比翼の鳥が如く
 夜毎涼しい風が吹くようになってきている。雨が降る度に気温は下がり、夏の終焉を知らせてくれる虫たちの音が微かだが耳に残るようになっていた。  葉月の終わり。もうすぐ処暑を迎えようかというある晴れた日。浬鳴湖の中心部に忽然 […](更新日:2016月10月23日)
月に香りて白梅や
 ふと、眼が覚めた。温かなぬくもりの中で眼を覚ます要因などあろうはずもないのに、散里はもぞもぞと身を捩る。まだ尚暗い、弥生の早朝。部屋の中に灯された篝火だけがゆらゆらと澄んだ空気に影を作り、あとは高い天井に反響する水音が […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐1
 東山道(とうざんどう)は斉(サイ)の国王都から壽(ジュ)の国までを繋ぐ千里を超そうかという主要街道である。  日々、何万とも知れぬ行商人や旅人が道を行きかい、彼らの発するざわめきや金がやがて道沿いに街を作る。この桂芳( […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐2
 今宵も雀小路に暮れの気配が迫る。しっとりと濡れた空気は昼過ぎまで降っていた煙雨のせい。湿気のせいできしきしと軋む廊下を歩くのは立待亭の妓女、月草。今日も憂鬱な表情を整えることのない長い髪の向こうに隠し、そろりと吐き出す […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐3
 細く針のようだった月は徐々に肥え始め、立待亭には再び日常の景色が戻っていた。  あの日、結局彼はみっともなく泣き出した月草を宥めすかしただけで妓楼を後にした。何が何やらわからぬまま、嵐のように現れては去って行った男。突 […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐4
「王手」 「お?」  紅で「相」と書かれた丸い駒を細い指先が一手動かし、先手から後手へ手は移る。縦横九本の線が引かれた盤上には二色の駒が古の戦乱を模して配置され、さながら耳を澄ませば剣戟や馬の嘶きが聞こえてくるようだ。戦 […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐5
 夢を見ていた。  はっきりとそれが現実ではないと知れたのは、一面に広がる銀色の野原のせいだ。見たこともない草木がゆらゆらと吹く風に揺れている。空は何処までも深い紺碧で散りばめられた金石の如き星が時折ちかちかと瞬いたり、 […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐6
 振り返る。予めわかっていたその姿。土色の髪。まるで棒のような痩躯は圧迫感など皆無であるはずなのに、何故か月草の心にこうも恐怖を煽らせる。細い眼から放たれる視線がじっと此方を見ている。血の気のない唇。牙など見えるはずもな […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐7
 無意識の内に後退しようとして背後にある大樹に気付く。男は相変わらず薄笑いの表情を浮かべて、まるで体重など感じない足取りで森の中を進んで来る。小枝を踏み折る音さえ聞こえない。生き物の気配に満ち溢れながらも静寂が支配した空 […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐8
 どうやって此処まで来たのか、月草には道中の記憶がさっぱりない。  気が付けば月草のしがみ付いた戌神は森の中に忽然と現れた岩肌に開いた洞穴に滑るように入って行くところだった。夜の気配とは違う湿った空気が身を包みこむ。しん […](更新日:2016月10月23日)
三世考
地理の章 北方の律国 【壽-ジュ】  一年の半分を雪と氷に閉ざされる最北方を領土とする国。  国領のほとんどが寒冷地の為、農作業ができる時間は限られ、その上一度不作に陥ると膨大な死者が出る。それ故、国政では備蓄や農耕への […](更新日:2016月10月23日)
刀剣乱舞 湯けむりこんとん座談
 秋の夜長の色濃い闇が辺り一帯を支配し、空に掛かる月は叢雲に隠れてわずかな明かりしか寄越さない。視界は優しい暗闇に閉ざされ、嗅覚は一層の鋭敏さを増し、どこからともなく漂ってくる金木犀と硫黄の匂いが交互に鼻腔を埋め尽くした […](更新日:2016月10月25日)
皆殺しイヴリースと俺ととても簡単な譲渡契約について
 どうしてこんなことになったのか。考えても悩んでもわからなかった。  揺れるジープの荷台。手首には手錠、足首には足輪。苦痛と空腹と眠気。すべてがない交ぜになって、男の表情をゆがませていた。黒い髪に黒い瞳、遠視のため手放せ […](更新日:2016月10月29日)
Cat has nine lives.
 月が見たくなった。  突然思いついて、先日偶然見つけた小さなバルコニーから一跳びで屋根へと登る。猫にとっては造作もない動きで瀟洒な娼館のてっぺんに降り立つと、そこには先客がいた。真白な紫煙が月に吸い込まれるように消えて […](更新日:2016月10月29日)

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