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黄金鹿の花妻

黄金鹿の花妻 一、女郎花
 淋の国の西南に位置する宗山(ソウザン)は広大な尾根を持つ国内屈指の名峰である。青々とした木々が立ち並び、小さな花々が咲き乱れ、美しい小川、豊かな湿地帯を幾つも抱き、その恵みは麓の村々へももたらされる。南方に延びる街道は […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 二、葛
 宗山の中腹、山頂からも麓の村からも離れた森の中に萩の生まれ育った家はある。広葉樹を切り開いた土地はそこだけぽっかりと日が差し、大きな陽だまりのように暖かい。薄暗い獣道から出てくると、いつもその明るさに目が眩みながらも心 […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 三、桔梗
 最初に弓を与えられたのは七つの時だった。  竹を削って歪曲させ、麻を拠った弦を張っただけの簡素な品ではあったが、幼い萩が目を輝かせて手に取るには充分だった。畜産がほとんど行われていないこの地域にとって、狩りは貴重な獣肉 […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 四、撫子
 どこか遠くで長く長く鳶が鳴き、峰々に反響してはこだまとなる。  長月が急ぐように過ぎ、神無月に入って数日。山は徐々に粧う準備を始め、遠目に見える高地は紅や黄へ日に日に変容していく。憎らしいほどの晴天に風は乾いて緩く、ど […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 五、芒
 重湯を煮る。米の香りは水に溶け、冷ややかな空気を少しだけ退けてくれる。ぽってりした汁をお椀によそり、温度を吸った木の器を両手で包んだ。こぼさぬように盆にのせると、匙を添える。起き上がれるのかどうかもわからない。ただ、何 […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 六、藤袴
 二羽の木菟が夜を通して連れてきた医師は非常に有能だった。  若白髪混じりの癖毛に大きな薬箱を担いだ男は手慣れた手つきで患者の脈を診て薬を飲ませ、一昼夜ほど滞在するとすぐに次の村へ向けて去って行った。無論、処置を受けた養 […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 七、萩
 踏み入れた足裏が落ちた葉に包まれてふわりと沈む。土の匂いが色濃く匂いたち、樹齢数百年を超す古い巨木の小道をゆく。肉厚な樹皮の合間を縫うように生い茂る羊歯はまだ鮮やかな緑色を掌のように広げている。古い森だった。萩も普段は […](更新日:2016月10月23日)
黄金鹿の花妻 了
「もういいってば、ばあちゃん!」 「いけません!神仙様のところへそんな格好で行かせられますか!」  神無月吉日。山はすっかり秋の装いを深め、朝晩の空気は澄んで霜を伴う。だが、昼餉の時間を過ぎればまだ日差しは充分に温かく、 […](更新日:2016月10月23日)
野花に白露
 風が吹いては音もなく一葉、一葉。鮮やかな色彩は日毎色褪せ、なにもまとわぬ寒々しい枝が増えていく。時は進み、巡る季節に里山も街も森も例外はなく、それはここ、菘明山刹谷洞も同様である。  深山に深く根を張る大樹のごとき聖域 […](更新日:2016月10月23日)
春雷が呼ぶ
 彼方の空を這い回っていた遠雷が雨雲を伴って徐々に近づき、やがて降り始めた雨粒は未だ固く閉じた蕾や若芽を急かすかのように叩く。次第に強まる雨脚が白い帯のように山を撫でれば、一足早く顔を出した下萌えの上を幾度もすべり落ち、 […](更新日:2016月10月23日)
夜鳥の巣
 暗闇は二羽にとってなんの障害にもならなかった。 音もなく翻る翼は立ち並ぶ木立の隙間を危なげなく縫い、月が照らしあげる夜を鋭く柔く裂いて行く。耳元で鳴る風は若葉の匂いを含み、金色の瞳には静かに滑る影しか映らない。まるで先 […](更新日:2016月10月23日)
羅生三世 実り多き山粧う
 あれほど大気に満ちていた水の気配はすっかりと消え、いつの間にやら風は乾いて天は碧く高い。一雨ごと明確に空気は移ろい、再び肌に馴染んだ季節がやって来る予感は否が応でも萩をそわそわと落ち着かない気持ちにさせていた。 「よい […](更新日:2017月9月25日)

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