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鰐の異形×猫の異形

きらわないで、メアリ・アン
 後ろ手に閉めた扉がバタンと鳴って外界との拒絶を明確にする。「蜘蛛の巣」へと戻ってきた青蜘蛛は毛の長い絨毯を一歩一歩踏みしめて歩きながら、眉間に寄った皺を揉む。  ここにはどんな雑音も届かない。たとえ鉄の牢獄を震わせる蝙 […](更新日:2016月10月29日)
トリックオアトリート!(お客様次第でどちらでも!)
「青蜘蛛様」  背後からかけられた声に振り返ればそこには全身を包帯でぐるぐる巻にされたミイラ男がいた。一瞬面食らった男娼館の主人はそうか今日はハロウィンかと暦を思い出して平常心を取り戻す。娼館に住まう男娼から従業員に至る […](更新日:2016月10月29日)
キャット&バスルーム
「今日こそ風呂に入ってもらうぞ、シガロ!」  目の前に立ち塞がる壁は一歩も退く気がない意志を示すように仁王立ちとなり、嫌々見上げた長躯に据えられた顔は常ならぬ厳しい表情だった。数十分にも及ぶ追いかけっこの末、廊下の隅っこ […](更新日:2016月10月29日)
人生上のアリア
 厚さ一センチに及ぶ書類の束の最後の一枚まで漸く眼を通し終わり、アリスゼルは深く息を吐いた。  かつて猫が支配していたギルド南館のホールに人影はない。正確な時刻は解らないが、すでに明け方近いのだろう。たとえ夜が本番の《ヤ […](更新日:2016月10月30日)
ノスタルジック・エイジア
 アカシアの花から甘い香りが漂ってくる。  熱帯性の気候を有するヤツハカは年中蒸し暑く、過ごしやすい午後とは縁遠い土地なのだが、それでも今日は何の気紛れか随分と心地よい風が東の方から吹いていた。そよそよと耳をくすぐる風に […](更新日:2016月10月30日)
午後三時のバターナイフ
 男娼館《Spider》は上空から見ると巨大なロの字を描いているように見える。  南側に当たる正面玄関と薔薇園から見れば単に立方体の巨大な屋敷のようなのだが、三階建ての本館を奥に向かって進むと東西の端に渡り廊下が設置され […](更新日:2016月10月30日)
冷めたスープのような幸福
「シガロ、」  低い声が耳を打つ。柔らかい温度が全身を包んでいて、寝返りを打つとふかふかと肩口が布の海に沈む。この温もったベッドから逃れるのは拷問に等しい。不満を示すように尾を振るが、肝心の相手には布の中に埋もれて見えて […](更新日:2016月10月30日)
荊の下でさえ猫は鳴く
 雨が降り続いていた。深く沈んだ曇天はどれほどの水を貯えているというのか、降り止む素振りも見せず白く煙る雨を降らせ続ける。濃密な水の匂い。ばしゃ、と一つ水溜りを踏みしめると、シガロは漸く辿り着いたアーチに人知れず息を吐い […](更新日:2016月10月30日)
Lost in Daydream 1
『―西暦2998年。三回目のミレニアムを間近に控えて浮かれ騒ぎに身を投じていた人類を襲ったのは、聖人の奇跡などではなく、九度目の世界大戦だった。  過去八度も繰り返された戦争の教訓を結局生かすことは出来なかった。世界平和 […](更新日:2016月10月30日)
Lost in Daydream 2
 視線があった。何しろ此方は六つも眼があるのだから、圧倒的に不利である。  射抜くような鋭いイエローゴールド。短く切り揃えられた髪は深いオリーブグリーン。その耳はやはりくすんだ濃緑の鱗に覆われ、そのまま首筋へと繋がってい […](更新日:2016月10月30日)
Lost in Daydream 3
 監獄の中は暗く、冷たく、そして寒かった。人の気配は立ち消えて、痛いぐらいの静寂。「最低限生きていけるだけ」の栄養は常に透明な管によって強制的に摂取させられていた。ピッピッ規則正しく続く電子音。視界の隅を黄色い液体が流れ […](更新日:2016月10月30日)
Lost in Daydream 5
 男娼館Spiderの重厚なエントランスを何時も通り顔パスで通り抜け、シガロは「COBWEB」と書かれたドアの前までやって来た。  姉に会う為にはこの男の部屋を通過しなければならない、ということは解っていたのだけれど。い […](更新日:2016月10月30日)
Lost in Daydream 4
 シガロ・ゼムンは再生復興都市No.6《トードホール》のスラム街にある小汚いアパートメントの一室で生まれた。  両親は共に人間で、二年前に生まれたシガロの姉もまた人間だったが、社交界に出席する訳でもなく、上等な教育を受け […](更新日:2016月10月30日)
Lost in Daydream 6
 夜が更ける。煌々と輝くネオンの明かりを飲み込むように夜が迫ってくる。熱気はとりあえずの落ち着きをみせつつも、日の出の灼熱を焦がれるように地面の下に燻っている。遠い喧騒。甘ったるい腐りかけの果実が緩い風に乗って流れてくる […](更新日:2016月10月30日)
Lost in Daydream 7
 にやにや笑いだけを残した猫は果たしてそれ以外の全てを何処にやったのだろうか。  シガロ・ゼムンは今までの人生に誇りなどない。名誉もない。愛情もない。名声もない。金などもってのほか。けれど、シガロはこれまで生きてきた中で […](更新日:2016月10月30日)
Lost in Daydream 8
 午前十一時。昼の中途半端な時間を照らす太陽の日差しは強く、街は熱気に包まれていた。遠くに見える建物が陽炎でゆらゆらと歪んでいる。白色の空は乾いているようで、しかし、相変わらず空気はたくさんの湿気を含んでいる。熱が体に纏 […](更新日:2016月10月30日)
Lost in Daydream 9
 新世界暦3051年、または死神暦696と45年の九月第二週。有り触れたカレンダーの一日。有り触れた午後の茹だるような暑さの時間。有り触れた喧騒に包まれていた《ヤツハカ》の街を、一発の轟音が揺るがせた。  その日、隊列を […](更新日:2016月10月30日)
Lost in Daydream 10
 結論から言うと、ボルドー・カッツィアは見事に「私の城」に返り咲いた。  あの日の出来事は「表向き」過激派テロリストによる反機構活動とされた。公式発表によれば、殉職者三十六名を出しながらも、WROの隊列は奮戦し、テロリス […](更新日:2016月10月30日)

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