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両性具有

嵐の夜に(花散里の愛月)
 雷鳴が鳴り響く。その昔、龍は雷から生まれると聞いたことがあった。腹の底に振動する重低音を唸らせ、重たく垂れ込めた暗雲に紫電を走らせる様はなるほど、確かに龍に似ていなくもない。  格子窓に叩きつける雨粒を眺める。曇った玻 […](更新日:2016月10月23日)
嵐の夜に(宵々夜の花嵐)
 いよいよ嵐が近づいていた。うねる風に暴れる森の木々。叩きつける雨粒の勢いは増し、轟く雷鳴は闇夜を真昼のように明るく照らす。  けれども、山の斜面を穿つように造られた洞穴の宮にまでは自然の猛威は届かない。狭い入り口と幾つ […](更新日:2016月10月23日)
花散里の愛月1
斉の国 南方山中に翡翠の湖あり 名を浬鳴湖(りめいこ)という かの大池 国を潤す梁江(りょうこう)の源とされれば 篤く尊ばれ 龍神住まうとされる ―龍は人の嫁を取る― 古き言い伝えに従って 花と楽と生娘を捧ぐ祭 未だ 辺 […](更新日:2016月10月23日)
花散里の愛月2
 かたかたかたと、散里を乗せた籠が揺れる。  辺りを包むのは、龍神の加護を讃える楽の音と暗闇。大勢の人間が籠の周囲を一緒に歩いていくのが気配で解る。散里は籠の出入り口である御簾の向こうに覗く、微かな闇を眺めながらぼんやり […](更新日:2016月10月23日)
花散里の愛月3
 水の音が聞こえた。  だからというわけでは恐らくないのだろうが、散里はふと眼を覚ました。見慣れない天井。記憶が曖昧だが、しかし、それが自室の太い梁ではないということは解った。異様に天井までの距離が遠い。張り巡らされた梁 […](更新日:2016月10月23日)
花散里の愛月4
 日は二度沈み、二度昇った。部屋へとやって来るのは碧雲ばかりで、かの龍の姿はあれ以降散里は見ていない。何も訊かぬ散里に何を思ったのか、碧雲が御方は御勤めがお忙しいので御座います、と言って慰めてくれた。すぐに片付けられて此 […](更新日:2016月10月23日)
花散里の愛月5
 本作品は性描写を含みます   彼に抱きかかえられたまま、訪れたのは散里がこれまで過ごしていた奥宮とは違う場所だった。水晶の咲き誇る回廊を抜け、黒い大きな柱の間をくぐれば、巨大な石の門があって、それを人の姿をした龍が押し […](更新日:2016月10月23日)
天楽の昼下がり
 空を往く。一匹の漆黒の龍が水中を駆けると同様に、天空の海を駆けていた。巨躯が風を切る度に、雲が裂け、旋風が起こり、ふわりと涼しい風が散里の頬を撫でる。高い、高い、空の上。真っ直ぐ前を向けば、視界を埋め尽くすのは白い雲と […](更新日:2016月10月23日)
恋を知る花
「主は伴侶を貰い受けはしないのかえ?」  目の前で優雅に茶を啜っていた純銀の大狐を本性とする神仙は唐突にそう言った。  長い髪に真紅の瞳を有する彼は、幽蕾山霞晶洞が主、銀紗羅真君。かつて袁王が三世の世を荒らしまわった折に […](更新日:2016月10月23日)
翡翠之薫風
 蓮崋山玲央洞は浬鳴湖が中心に位置する。  標高こそ低いものの、その周囲を莫大な水量を湛える翡翠色の湖に囲まれ、更に洞への入り口である大門を水中に設けることにより、神域としての必要不可欠な清浄さを限りなく保ち続けている。 […](更新日:2016月10月23日)
比翼の鳥が如く
 夜毎涼しい風が吹くようになってきている。雨が降る度に気温は下がり、夏の終焉を知らせてくれる虫たちの音が微かだが耳に残るようになっていた。  葉月の終わり。もうすぐ処暑を迎えようかというある晴れた日。浬鳴湖の中心部に忽然 […](更新日:2016月10月23日)
月に香りて白梅や
 ふと、眼が覚めた。温かなぬくもりの中で眼を覚ます要因などあろうはずもないのに、散里はもぞもぞと身を捩る。まだ尚暗い、弥生の早朝。部屋の中に灯された篝火だけがゆらゆらと澄んだ空気に影を作り、あとは高い天井に反響する水音が […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐1
 東山道(とうざんどう)は斉(サイ)の国王都から壽(ジュ)の国までを繋ぐ千里を超そうかという主要街道である。  日々、何万とも知れぬ行商人や旅人が道を行きかい、彼らの発するざわめきや金がやがて道沿いに街を作る。この桂芳( […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐2
 今宵も雀小路に暮れの気配が迫る。しっとりと濡れた空気は昼過ぎまで降っていた煙雨のせい。湿気のせいできしきしと軋む廊下を歩くのは立待亭の妓女、月草。今日も憂鬱な表情を整えることのない長い髪の向こうに隠し、そろりと吐き出す […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐3
 細く針のようだった月は徐々に肥え始め、立待亭には再び日常の景色が戻っていた。  あの日、結局彼はみっともなく泣き出した月草を宥めすかしただけで妓楼を後にした。何が何やらわからぬまま、嵐のように現れては去って行った男。突 […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐4
「王手」 「お?」  紅で「相」と書かれた丸い駒を細い指先が一手動かし、先手から後手へ手は移る。縦横九本の線が引かれた盤上には二色の駒が古の戦乱を模して配置され、さながら耳を澄ませば剣戟や馬の嘶きが聞こえてくるようだ。戦 […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐5
 夢を見ていた。  はっきりとそれが現実ではないと知れたのは、一面に広がる銀色の野原のせいだ。見たこともない草木がゆらゆらと吹く風に揺れている。空は何処までも深い紺碧で散りばめられた金石の如き星が時折ちかちかと瞬いたり、 […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐6
 振り返る。予めわかっていたその姿。土色の髪。まるで棒のような痩躯は圧迫感など皆無であるはずなのに、何故か月草の心にこうも恐怖を煽らせる。細い眼から放たれる視線がじっと此方を見ている。血の気のない唇。牙など見えるはずもな […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐7
 無意識の内に後退しようとして背後にある大樹に気付く。男は相変わらず薄笑いの表情を浮かべて、まるで体重など感じない足取りで森の中を進んで来る。小枝を踏み折る音さえ聞こえない。生き物の気配に満ち溢れながらも静寂が支配した空 […](更新日:2016月10月23日)
宵々夜の花嵐8
 どうやって此処まで来たのか、月草には道中の記憶がさっぱりない。  気が付けば月草のしがみ付いた戌神は森の中に忽然と現れた岩肌に開いた洞穴に滑るように入って行くところだった。夜の気配とは違う湿った空気が身を包みこむ。しん […](更新日:2016月10月23日)
鳥籠の猫
 腐った吐息を吐き出す都会にオアシスなど在りはしない。それは澪川月読(みのかわつくよみ)の持論である。雑踏と二酸化炭素にまみれた路地を行く。どんよりとした曇天とスモッグが空を覆い隠し、コンクリートと空はまるで切り離されて […](更新日:2016月10月30日)

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