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その他 「擬態する悪意」

 「スニーキングスネークアヘッド」に登場する二階堂うつつと海棠アキラのちょっとした話。約700字。
 次長編書くなら「発情キマイラ」かなあ…。



 うっざ! と思っても、もちろん声には出さない。
 なんのためのわざわざ染めた黒髪か、なんためのベージュのカーディガンにフリルの付いたブラウスか、なんための膝下五センチのスカートか、なんのための白いソックスにキャラメル色のヒールの低いパンプスか。
 全部お前らみたいなアホを難なく殺すためだよバーカ! とは言わない。生憎昼下がりの駅前の人通りは多い。誰が聞いてるかわからない。
 ああ、でも、もう我慢も限界だ。
 聞き飽きたナンパの常套句。軽薄そうな顔面。そのくせ数人で取り囲んで逃げ道をなくす狡猾なところ。ああ、ほんとに。
「待った?」
 聞き慣れた声に反射的に返事をする。ナンパ野郎たちがぽかんとした隙にその間をすり抜けた。
 まあ、無理もない。
 絶倫強姦魔兼殺人鬼にして、ヘビの中のヘビであるアキラちゃんは顔面だけは百点満点なのだから。
 街を歩けば芸能事務所にスカウトされ、女の子に逆ナンされ、そういうありとあらゆるシチュエーションでネコを殺している。
 誘蛾灯みたいなものだと、二階堂うつつは考える。
「オタノシミでしたか?」
「馬鹿言わないで。私の守備範囲知ってるでしょ」
「そうでしたそうでした」
 じゃ、どうする? と訊いてくるので思い付きでパンケーキが食べたいと言ったら意外にも二つ返事でオーケーされた。
「千景が甘いもん食いたいって言ってたから、下見」
「……アキラちゃんて意外と」
 恋人には尽くすタイプだったのかしら。飲み込んだ言葉の先を促すこともなく、無邪気に彼はカラフルな店先を指さした。
 まあ、いいか。人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるって言うし。
 一瞬、脳裏に鎖で繋がれた平凡な男の姿が浮かんだが、すぐに忘れた。だって、私もヘビだもの。ネコなんて生きようが死のうが恋しようが、どうだっていいわ。ほんと。

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