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超短編 第169回「忘れられた言葉」

500文字の心臓」参加作品。第169回「忘れられた言葉」


 おそらく人の想像力は有限であり、しかしながらその適応力には限界がない、ということだと思うのだ。
 今日授業を担当するクラスは無頭体の生徒のみが集められていた。
 無頭体とはその名の通り、出生時より頭部が存在しない人間のことだ。首より上には何もない。それなのに視覚や聴覚は問題なく機能するという摩訶不思議な生き物は最早新生児の九割を超え、まるで珍しくなくなっている。
 一方で有頭体の親と無頭体の子によるコミュニケーションギャップは社会問題にもなっていた。表情も発声器官もない彼らは無頭体どうしでしか疎通できない思念によってやり取りするのだから、さもありなん。
「今日は無頭体のみんなには馴染みのない言葉を紹介しよう。口は災いの元、死人に口なし……」
 話し始めた直後、小さなホワイトボードがさっと挙手のようにあげられた。「先生は目も口もあるのにどうしてそんなに退屈なの?」記された言葉の暴力は音声を伴わなくても強烈だ。おそらく彼らの思念にはさざ波のごとく嘲笑が広がっているだろう。
 感情を殺す。飲み込み、胃の腑におさめ、「それ」をなかったことにする。
「次に……」
 乾いた音だけが静寂の教室に放たれる。

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