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超短編 第168回「ハンギングチェア」

500文字の心臓」参加作品。第168回「ハンギングチェア」。

 とびきり白い卵を選ぶ。
 卵の森と呼ばれるその場所で、肺の奥まで冷やすかのような深い霧の中で、視覚を使うことを諦め、手探りで触れた殻の凹凸でその色を測る。
 差し込む金色の光によって、一瞬霧が晴れる瞬間がある。一抱えほどもある卵が木の枝から無数に吊り下がっている光景にもすっかり慣れてしまった。お目当ての卵が純白であることを改めて確認して、私は満足する。
 そうして手にしたハンマーを振りかぶり、卵に勢いよく穴を開ける。
 カシャッと繊細な音は霧に吸い込まれ、間隙からあふれ出した内容物は地に落ちて、てらてらと輝いた。
 人ひとり容易に入れてしまうような巨大な穴を開け終えると、私は手にした工具を放り投げ、慎重に卵の中に身体をすべり込ませる。卵を吊り下げた透明な糸は切れず、殻は無惨にも粉々にならなければ成功だ。私はほうと息を吐き、臀部を濡らすどろりとした液体がもたらす不快感に酔った。
 一つ分の生命を踏みつぶした安寧の中で私は眠る。時折、まるで私をあやすように、卵は風もないのにゆらゆらと揺れた。

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