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2019年

超短編 第167回「ツナ缶」

500文字の心臓」参加作品。第167回「ツナ缶」。



 スマートフォン越しの声がワントーン高くなり、彼女が軽い苛立ちをおぼえていることを察する。けれど、こちらがなんと取り繕うか迷ってるうちに通話は一方的に切られた。
 とにかく完熟のやつじゃないとダメだから。
 尖った声が耳の奥に突き刺さったまま、僕は缶詰園の前で立ち尽くす。
 缶詰の見分け方なんて皆目見当も付かない。
 潔く人に教えを請うことにし、白いエプロンをした缶詰園の従業員に声をかけた。
「ツナ缶の木ってどの辺ですか? 彼女がツナ缶じゃないとダメってきかなくて……」
 余計なことを言ったなと思ったが、エプロンの女は気にした様子もなかった。しばらくぼんやりと考え込むと、無言で歩き出す。何やら白痴のようだが、今頼れるものは彼女の白色しかない。
 しばらくして彼女は一本の木の下で歩みを止めた。
 見上げれば鈴なりのツナ缶。女はしばらく視線をさまよわせたかと思うと、やがて迷うことなく一つの缶詰をもぎ取った。
 ゆっくりとした動作で僕の手にもぎたてのツナ缶を握らせる女はにこりともせず、ようやく役目を終えたと言わんばかりにさっさと踵を返した。
 掌の上のツナ缶は生温かく、それが果たして完熟かどうか、結局僕にはわからなかった。

オフライン J庭46のお知らせなど

 大変ご無沙汰しております…!どうにか原稿も無事に入稿できましたので久しぶりにサイトに手を入れています…!

 というわけで2019/3/3に池袋サンシャインシティで開催されるJ.GARDEN46に参加します!
 今回の新刊はお菓子の世界「ホール・ケーキ・ワールド」を題材にした短編集です。タイトルもずばりです。詳細についてはオフラインページをご確認ください。
 通販などは準備中ですので、改めてご連絡させていただきます。

 また、2019/6/16に静岡で開催される第三回静岡文学マルシェにも参加予定です。
 こちらは前回発行した「しぞーかおまち奇譚」の続編を新刊で持ち込む予定ですので、ご都合があえばどうぞよしなに~

オフライン 新刊通販受付開始しました!

 BOOTHにてJ庭46新刊「ホール・ケーキ・ワールド」の通販受付を開始しました。
 こちらのページよりお申込みください。発送はイベント終了後になります。
 受付は3/1(金)までです。イベント終了後、残部が出た場合は再び通販に回しますが、完売の場合は終売となりますのでご了承ください。

 また、既刊の通販についてもあわせて受け付けておりますので、ご検討いただければ幸いです。
 取り扱いのある既刊は「黄金鹿の花妻」、「ALL I NEED IS EATING」、「落花雨の銀狐」(残1冊)となります。

 それでは要件のみとなりますが、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします!
 イベントまであと二週間ですね!嘘でしょ!

オフライン J庭46当日のおしながき


※クリックで大きく表示されます※

 おしながきをアップしました!また、当日の取り置きについても受け付けていますので、ご希望の方はこちらのページよりお申込みください。一旦受付は3/2までとなります。
 ※「黄金鹿の花妻」ですが、あと2,3冊レベルの残部僅少ですので、確実に手に取りたい方はお取り置きをお勧めします…!

オフライン J庭46御礼&レポ

 改めましてJ.GARDEN46、ありがとうございました!!
 当サークルにお立ち寄りいただいたのはもちろん、本を手に取っていただいたり、お声がけいただいたり、お菓子をいただいてしまったり、本当に元気とやる気をいただきました。新刊「ホール・ケーキ・ワールド」はまたまた人を選ぶ内容かなと思っていたのですが、思ったより手に取っていただき、感謝感謝です。
 続きにて当日のレポや感想など書いてますので、気になる方はどうぞ。

「オフライン J庭46御礼&レポ」の続きを読む

オフライン 「ホール・ケーキ・ワールド」通販おまけ



 「ホール・ケーキ・ワールド」を通販していただいた方におまけで付けた書き下ろしになります。
 「ゼリーフィッシュと氷の人魚」の二人のその後でした。通販のご利用、まことにありがとうございました!

 一言メッセージもありがとうございます!「いいね!」いつも元気いただいてます!

超短編 第168回「ハンギングチェア」

500文字の心臓」参加作品。第168回「ハンギングチェア」。

 とびきり白い卵を選ぶ。
 卵の森と呼ばれるその場所で、肺の奥まで冷やすかのような深い霧の中で、視覚を使うことを諦め、手探りで触れた殻の凹凸でその色を測る。
 差し込む金色の光によって、一瞬霧が晴れる瞬間がある。一抱えほどもある卵が木の枝から無数に吊り下がっている光景にもすっかり慣れてしまった。お目当ての卵が純白であることを改めて確認して、私は満足する。
 そうして手にしたハンマーを振りかぶり、卵に勢いよく穴を開ける。
 カシャッと繊細な音は霧に吸い込まれ、間隙からあふれ出した内容物は地に落ちて、てらてらと輝いた。
 人ひとり容易に入れてしまうような巨大な穴を開け終えると、私は手にした工具を放り投げ、慎重に卵の中に身体をすべり込ませる。卵を吊り下げた透明な糸は切れず、殻は無惨にも粉々にならなければ成功だ。私はほうと息を吐き、臀部を濡らすどろりとした液体がもたらす不快感に酔った。
 一つ分の生命を踏みつぶした安寧の中で私は眠る。時折、まるで私をあやすように、卵は風もないのにゆらゆらと揺れた。

【再掲】ヤツハカ「人類愛、その極論」

「人類愛、その極論」 約4000字 不定形の異形×少年

 4/1エイプリルフールの人外BL企画に参加した作品を再掲しました。今回も全力で遊んでいる企画で楽しかったです。主催様毎年ありがとうございます。
 私は読み物で参加させていただいたのですが、現在掲載しているヤツハカの作品群の数百年後IFという、お遊びめいた作品を載せていただきました。ヤツハカを知らなくても全然読めますが、知ってると「おっ」となるあれですので、楽しんでいただければ幸いです。

 というわけで以下、本作を書くにあたって考えた設定とか。(ヤツハカ作品のネタバレを含みます)

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一言メッセージご返信(20190506)

 いつもいいね!ボタンのぽちっとありがとうございます…!見ていただけているとわかってとても嬉しいです!!
 続きからお返事になりますー!

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超短編 第169回「忘れられた言葉」

500文字の心臓」参加作品。第169回「忘れられた言葉」


 おそらく人の想像力は有限であり、しかしながらその適応力には限界がない、ということだと思うのだ。
 今日授業を担当するクラスは無頭体の生徒のみが集められていた。
 無頭体とはその名の通り、出生時より頭部が存在しない人間のことだ。首より上には何もない。それなのに視覚や聴覚は問題なく機能するという摩訶不思議な生き物は最早新生児の九割を超え、まるで珍しくなくなっている。
 一方で有頭体の親と無頭体の子によるコミュニケーションギャップは社会問題にもなっていた。表情も発声器官もない彼らは無頭体どうしでしか疎通できない思念によってやり取りするのだから、さもありなん。
「今日は無頭体のみんなには馴染みのない言葉を紹介しよう。口は災いの元、死人に口なし……」
 話し始めた直後、小さなホワイトボードがさっと挙手のようにあげられた。「先生は目も口もあるのにどうしてそんなに退屈なの?」記された言葉の暴力は音声を伴わなくても強烈だ。おそらく彼らの思念にはさざ波のごとく嘲笑が広がっているだろう。
 感情を殺す。飲み込み、胃の腑におさめ、「それ」をなかったことにする。
「次に……」
 乾いた音だけが静寂の教室に放たれる。

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