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FGO 続く碧

「#サンソン版創作60分一本勝負」参加作品
お題「海」
瓜野(@baraniku_i)



 紺碧の空には雲一つなく、同じ色を湛えた海にもまた一点の瑕疵もない。白い砂浜は見渡す限りどこまでも続き、押し寄せる波の音は実に穏やかだった。差し込む光は高い位置にあり、時折そよぐ風は潮の匂いを含んでいる。
 これが人々の追い求めるリゾート地、即ち楽園、即ちバカンス好適地。持っていた知識が経験という名の実感を得て、ぱたぱたと立体化し、構築される。
 シャルル=アンリ・サンソンが生前、そのほとんどを過ごしたパリに海はなかった。
 フランスはその西側を北大西洋、南を地中海に面した国家であり、近世まで海洋戦略を大いに重要視してきた。しかし、その事実がサンソンに海への親近感や感慨を抱かせることは終ぞなかった。ましてや遠く、どこにあるとも知れぬ南の海の色に思いを馳せるなど、まるで思いも寄らなかったに違いない。
 ゆえにサーヴァントとして第二の生を得て、こうして波の音を聞いていると不可解な気分になる。最早この身は歴史の残り香のようなものであり、すでに肉体はなく、加えてサンソンは海に深い思い入れもない。それなのに、砂浜に腰を下ろしているだけで、どうにも心安らぐのはどうしてだろうか。ひょっとしたら、それこそが、人間の原初を端的に示す、あまりにも単純な「感覚」なのかもしれなかった。即ち、最初の「人」とは神が作りたもうたのではなく、この深く底知れぬ海からやって来たのだと。
「何をぼうっとしているんだい?」
 突如呆れた声が頭上から降ってきて、サンソンは顔をあげた。
 そこには同じくフランス王家に仕えた者であり、今はともにカルデアに属するサーヴァントでもある、シュヴァリエ・デオンがビーチにもかかわらず、相変わらずの仕事着できらびやかに佇んでいた。彼/彼女はこの景観にそぐわぬ格好を特に気にする風もなく、王妃は?と端的に問う。
「ジャンヌと泳ぎに行ったよ。僕は留守番だ」
「そう…まあ、二人一緒なら」
 生前同様、王妃の護衛役兼お世話係をかって出ることの多いデオンはしばし心配そうに眉をひそめたが、様々な要素を考慮して問題ないと判断したのだろう。うん、と一人納得したように頷いた。
「それじゃあ、私は行くよ。アルバイトの身もなかなか忙しいから」
「ああ」
「……キミも、羽目を外せ、とは言わないけれど、少しは楽にしたらどうだい?」
「コートなら部屋に置いてきたけど……」
 まだ暑苦しかっただろうか、と問うサンソンにデオンはあからさまなため息をついた。何を言っても無駄と思ったか、それとも意図的なものを悟ったか。
 軽やかな足音が去ってしまうと、あとには元通り穏やかな日差しと波の音、ビーチで思い思いに寛ぐ人々のざわめきだけが残された。耳を澄ませば遠く少女たちの歓声が聞こえる。それは、それだけでなんて。
「幸福なことか」
 足元では小さなヤドカリが白い砂に一本の線を引きながら、ゆっくりと歩いていく。


2018.08.18

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