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FGO ペシェ・ミニョン

「#サンソン版創作60分一本勝負」参加作品
お題「夏の食べ物」
瓜野(@baraniku_i)



 英霊ロビンフッドがカルデアの厨房で彼の姿を見つけたのは、ほんの偶然だった。
 最初は話しかけるつもりもなく、赤い弓兵か獣耳の娘以外の姿があるなんて珍しいと思った程度だった。しかし、辺りに充満する甘い匂い。いつになく真剣な様子で向き合っているのは琺瑯の鍋だろうか。火加減はごくとろ火。青白い炎が揺れるたび、鍋の中身がくつくつと囁くような音を立てる。
 正直に言うと、中身に興味をそそられたのだ。これではカルデアの大食漢および食い意地の張った連中を笑えはしない。
「何作ってるんで?」
「おや、ロビンフッド」
 さすがと言うべきか、背後から突然話しかけても彼は驚いた声一つ出さなかった。
 はめ込まれた青い瞳が少しだけ眩しそうに細められる。その職業と生い立ちを象徴するような黒いコートはなく、白いシャツの袖をまくった彼は単なる好青年に見える。無論、カルデアに英霊として存在している以上、そんなことはあり得ないのだが。
 クラスをアサシン。フランスはパリの処刑人、シャルル=アンリ・サンソンは鍋の中身を軽く揺すると、なんでもないように言った。
「桃のコンポートだ。フランスでは夏の果実といえば桃だから、つい懐かしくなってね」
「へえ。通りで甘い匂いだ」
「ああ。見よう見真似とはいえ、うまくできたと思う」
 木べらの先がゆっくりと鍋底を撫でる。小さめに切られた黄色い果肉はシロップの中で浮きつ沈みつ、好き勝手に転がっている。つやつやと輝くそれは確かにロビンフッドの目にも美味そうに見えた。これならさぞや甘いものに目がない連中には喜ばれるに違いない。
 そこまで考えて、はたと、とある顔が思い浮かんで、急速に記憶が遡る。
 橙色の髪の少女と彼女の唯一の正式なサーヴァント、桃、冷蔵庫、食堂の風景、赤い弓兵の「ではこれは君たちのために残しておこう」という台詞。からからとすべてが繋がって、あっと思わず声が漏れた。
「ロビン?」
「オタク、これどこにあった桃だ?」
「冷蔵庫にあったものだが……」
 何かまずかっただろうか、と目を見開くサーヴァントにロビンフッドは思わず天を仰いだ。大袈裟なジェスチャーは生まれついてのものなので許してほしい。
「そりゃあ、マスターがマシュとタルトだかケーキだか作る用に弓兵が余らせておいたやつだよ……」
「え?」
 そうだ、確かに昨日の朝の会話だ。食堂に残っていた人影はまばらで、いたとしても三人の会話に耳を傾けているものはロビンフッドを除いて一人もいなかった。だから、彼が知らないのも無理はない。これは不幸な事故で、ただの行き違いだ。おそらく、マスターは当たり前のように許してくれるだろう。たとえ、彼女が甘いものに目がない、年端も行かない少女だったとしても。サンソンがやらかすことは実に珍しいことではあるが、だからこそ笑って、珍しいこともあるねと目元を緩ませるに違いない。ありありと目に浮かぶ情景は微笑ましくはあっても、胃が痛くなることはない。
「……ロビンフッド」
「はいはい。早速ですけど、お嬢さんがたを呼んで来ましょうか?」
「一体何をすれば僕は許されるだろうか?」
「いや、何がだよ」
 そんな深刻な話かよ、というロビンの突っ込みを最早生真面目なアサシンは聞いていなかった。
 大きなため息が甘い匂いに溶ける中、眉間に深い皺を刻み、考え込んでいる彼に嫌味を言う気も失せる。方向性はともかく、深度はともかく、彼なりに年若きマスターのことを真剣に考えてのことだと理解はしている。何しろ人理焼却に伴い、世界でたった一人のマスターとなった彼女の召喚にいち早く応えたサンソンだ。主人としての彼女を見守り、導き、ここまであった彼のことだ。ロビンフッドなどより余程、余程言葉に尽くせぬ思いもあるに違いない。
「……の、わりに鈍いんだよなあ……」
「ロビン、君も一緒に考えてくれ」
「いや、アンタの作ったそれ、マスターとマシュにご馳走してやれば済む話でしょうよ」
 ロビンフッドの提案に対し、一瞬の間が落ちる。しかし、すぐに青い瞳は再度驚愕によって見開かれ、それは思いもよらなかったという顔を彼はした。
 心底、真実、嘘などつきようのない表情だった。そんな簡単なことでいいのかという逡巡、しかし逆に失礼に当たるのではという困惑。その諸々がありありと読み取れ、ロビンフッドは改めて深い深いため息をつく。まったくもって、誰も彼も。
「甘ったるいこと」
 いろんな意味で。


2018/08/11

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