ibaraboshi***

home > ブログ > FGO きみをえがく

FGO きみをえがく

「#サンソン版創作60分一本勝負」参加作品
お題「描く」「肖像」
瓜野(@baraniku_i)



 無機質な談話室の壁に今日ばかりは極彩色が並んでいた。
 近寄ってよく見ればそれは四つ切の画用紙に鮮やかな発色のクレヨンで絵を描いたものだ。あるものは食堂のなんでもない風景を、あるものはレイシフトした先で見たであろう虹を、あるものは庭園の花を、あるものはカルデアに所属するサーヴァントの面々を。ときに拙く、ときに巧みに。筆致も色合いも異なるそれらはおそらく談話室を通りかかった人々が思い思いに描いたのだろう、と容易に想像がつくものだった。
「あんたも一枚描いていくかい?」
 どこか蓮っ葉な物言いに振り返れば、そこには極東の衣装に身を包んだ娘がいた。布の花で髪を飾り、たすき掛けで着物の袖をたくし上げた小柄な少女は当然人間の姿をしていながら人間ではない。ここカルデアでは人間よりサーヴァントの数の方が余程多いのだから。
「北斎。これはあなたが?」
「応よ。倉庫で現代の画材一式見つけてねェ。ここで広げて見分してたら、あれよあれよという間に人が集まってこの通りさ」
 まあ、皆の衆、好きに描いていってくれちゃってさ。そう言った彼女は呆れているようで、どこか嬉しそうだった。生前は芸術家、それも著名な画家であったという彼女にとってやはりその本分に触れている時間は幸福なのだろう。それを誰かと分かち合えるのならばなおさら。
 一方、芸術にはあまり縁のないシャルル=アンリ・サンソンは改めて壁面狭しと張り付けられた絵画の一枚一枚に目を遣った。そのほとんどがクレヨンの持つ色彩を限界まで使って描かれる中、ふと中央辺りにある茶色一色の絵に目が惹きつけられた。これは、まあ、なんというか。
「この絵は誰が?」
「ああ、それはマスター殿さァ。お題は唐揚げ」
「……唐揚げ」
「描きあげたあと、じっとそれを見つめてねェ。しばらくしたら盛大に腹の虫鳴らして走っていっちまったよ。今頃食堂じゃないかい?」
 そうけらけら笑いながら教えてくれる北斎にサンソンは返す言葉もなく脱力する。本当に、あの人は。
「どうだい?先生も一枚描いていくかい?」
「いえ、僕は絵は……それと先生というのは、」
 やめてください、と続けようとして思わず口を噤んだのはコートの裾を控えめに引っ張られたのに気付いたからだ。首だけを巡らせれば銀色の猫っ毛が視界に入り込む。ジャック?と声をかければアサシンのサーヴァント、少女の姿をした群像、稀代の殺人鬼ジャック・ザ・リッパーはグリーンアップルの爛々と光る目をこちらに向けた。
「あげる」
 端的な言葉と共に差し出されたそれをサンソンが反射的に受け取ったのを見届けると、彼女は素早く身を翻す。引き留める間もなく、霧夜に溶けるかのように少女は姿を消した。サンソンの手に残されたのは一枚の画用紙。ほとんどが灰色と黒によって描かれた色彩は目を凝らせばどうにか人型に見えるという程度。けれども、黒色に白をのせてどうにか似せようと苦心したコート、本物とは似ても似つかぬほどあちこちに跳ね回る銀色の髪、唯一鮮やかに青色で穿たれた二つの点は瞳だろう。つまり、それは、まさしく。
「なんだい、うまく描けてるじゃねぇか。恥ずかしがることねえってのに……なぁ、先生」
 言うべき言葉がうまく見つからなかったせいもある。けれど、何を言うにも「野暮」な気がして、北斎の言葉を噛み締めるように、サンソンは一つ頷くに留めた。
 絵の中の英霊シャルル=アンリ・サンソンはにっこりと笑っているように見える。

2018/08/05

新しい記事
古い記事

return to page top