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刀剣乱舞 忠実なる狂犬(乱藤四郎、女審神者)

 そもそも会議は煮詰まっていた。
 言いようのない苛立ちは積もりに積もって部屋中を重苦しく支配し、淀んだ空気は更なる険悪の種をまく。だからきっと彼女がその一言を発さずとも何かがいつかは引き金となったはずだ。けれど彼女は決して気の長い方ではなかったし、何より非生産的な時間の浪費に二十分も前からうんざりしていた。正直二十分耐えただけでもだいぶ誉めて欲しい。いや、誉められて然るべきである。
 あらゆる理論で己の主張を正当化し、結局彼女の放った一言は見事に隣席の血の気の多い男を激高させた。まるで瞬間湯沸かし器だなあと胸ぐらを掴まれながら彼女はのんびり考える。男の罵声は右の耳から左の耳へと素通りし、ただ距離が近いだけに鼓膜を突き破りそうな音量とヤニだらけの口から飛び散る唾だけが非常に不愉快だった。
 眉を顰めた拍子にぐっと襟元の力が強まる。馬鹿にされたと思ったのか、あるいは更なる制裁を加えようとしたのか。いずれにせよ男の次の行動は実現することはなかった。なぜって、懐の中で震える刀の怒りが早くも頂点に達したからだ。
「みだれ」
 そのたったの三音を言い終えるか終えぬかのうちに呼吸を阻む力はあっという間に消え失せた。薄紅色のリボンと金色の長い髪の軌跡が弧を描き、まるで肉食の獣のように男の身体を軽々と押し倒す。どさりと人間が無様に床へと落ちるのに反し、革靴の踵を高らかに鳴らし、少女のような形をした刀剣男士は逆手に構えた刃を手にその上へと覆いかぶさる。切っ先は違わず喉へ。剣呑に光る青色の目を爛々とむいた抜き身が、じっとりと凄味を含んだ声を喉の奥から引きずり出す。
「汚い手であるじさんに触るな」
 ひぇっという悲鳴は誰のものか。蛇に睨まれた蛙のように動かなくなってしまった男と獲物に狙いを定めた美しき獣。目も覚めるような鮮やかな光景に先程の眠たげな会議の様子はまるで嘘のようになくなっていた。残ったのは圧倒的緊迫感と緊張感。素晴らしい。やはり軍議とはこうでなくてはいけない。
「乱、こちらへ」
「はーい」
 短刀乱藤四郎は決して狂犬ではない。よって主の声一つでぱっと身を翻すとおとなしく傍へと舞い戻る。倒れた椅子を直し、元通り席へと着く。異様な雰囲気に包まれた場の空気を打ち壊すかのように彼女はわざと快活な声を出した。
「さあ、審議を進めましょう」
「ま、待ちたまえ!貴殿の刀を仕舞われてから…」
「なんでさ!ボク、静かに待ってるよ!」
「と、本刀も言っておりますし。それに肝心の刀剣男士がいる方が皆様も議論に身が入りましょう」
 議場はわずかにざわついたが、それ以上反論する者は誰もいなかった。指を組んだ彼女はにこりとわざとらしいばかりの笑みを浮かべてみせる。その後ろで粟田口吉光の青白い乱れ刃が不敵に微笑んで仁王立ちしているのを勿論知った上で。
「さあ、審議を進めましょう」
 もう一度同じ台詞を繰り返す。


2017.03.27

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