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刀剣乱舞 本丸防衛戦開幕一刻前

 這い寄る春の闇が山の奥から降りてくる霞を食らって黒を深め、ただじっとりと息をひそめているような夜だった。
 すべての部隊は大きな損害もなく無事帰還。刀剣男士たちは揃って夕餉を終え、各自風呂に入ったり、雑務をこなしたり、思い思いに過ごしていた。
 特に本丸御殿で一番大きな広間には粟田口派の短刀をはじめとした刀たちが行灯の光に吸い寄せられるように多く集まっている。皆で固まって何をするというわけでもない。ある者は隅っこで寡黙に本をめくり、ある者は帳面に何やら書き付けをし、ある者らは習ったばかりという折り紙に興じ、またある者らは囲碁の対戦に夢中だ。そうして、そんな刀たちの輪の奥で一人女が脇息に寄りかかり、ひっそりと目を閉じている。他ならぬ刀剣たちの主である彼女はたとえどれほど騒がしかろうと、その気配が、声が、心地よいのだと言って譲らない。もうほとんど眠っているであろう彼女に弟の一振りである前田藤四郎が自身のマントを掛けてやる。前田が寒いのでは?そう問うた平野にゆるゆると首を振った少年はどこか満足そうだった。
 そう、穏やかな夜だった。
 叢雲から時折顔を覗かせる月は真円に等しく、冴え冴えとした白い光を縁台へと投げかける。空気は湿気を含み、重たい。その中にはすでにもう色濃く目覚めの季節の匂いが混ざり始めていた。
 だから、きっと薬研藤四郎は「それ」に気が付くのが少し遅れたに違いない。
 最初に胡乱な顔をして見せたのは、乱藤四郎と真剣な面持ちであやとりに取り組んでいた信濃藤四郎だった。らん、とその不可思議な色合いの虹彩が輝き、どこか遠くを見遣る。夜の奥のそのまた夜の果てを。見据えるかのような動きに乱も何事かと眉をひそめたが、しばらくしてあっと小さくこぼした。その頃にはもう広間にいるほとんどの刀剣たちが異変に気が付いていた。何しろ索敵を得意とする短刀や脇差ばかりが集まっている。皆一様に顔を見合わせ、夜の静寂に耳を澄ませる。それは身に染みた、どこか懐かしいといってもいい気配だった。納められた白刃の高揚、染み込んで取り除けない血臭、甲高い音をたてて触れ合う金属、戦場の、五感。
「大将、」
 そう声に出したのは厚藤四郎だっただろうか。皆の視線が一挙に広間の奥へと集中する。
 そこには一人の女がいた。否、そこにいるのは何を隠そう歴戦の大将、並みいる刀たちの主君にして我らが主だった。
「門がこじ開けられた。夜間急襲を確認」
 黒いまなこをひたりと見据え、落ち着き払った声が発せられる。黒い髪がどうとうねり、反して白い喉元がまばゆいほどに闇に蠢いた。
「前田、平野。他の刀剣たちに伝達を。静かにな」
「はい、主君」
「承りました」
「鯰尾、骨喰は偵察に向かえ。まだ一の門より内部には侵入されていない」
「了解!」
「了解した」
「他の者は迎撃準備を。戦支度を急げ」
 その声を合図に皆ぞろぞろとけれど音もなく素早く広間を出ていく。ものの数十秒も経たぬうちに残ったのはたったの四振りだけだった。皆、それぞれの役目を理解していた。まだ本丸内部にまで敵が侵入していないとはいえ、もしもの場合もある。大将をたった一人残せるものか。留まった刀の顔を一振り一振り順繰りに見回し、主は呆れとも感銘ともつかない息を吐く。まったく示し合わせたわけでもないのに。否、その声色は大いに愉快そうに笑っていた。
「俺たちがいるなら安心でしょ、大将」
「大将のことは俺たちが守るからな!」
「オレたちがついてないとすぐ敵陣に突っ込んでっちまうからな、大将は」
「俺たちは守り刀としても名高い吉光の短刀だ。まあ潔く守られてくれや」
 なあ大将。その言葉に今度こそ彼女は声をあげて笑った。
 本丸防衛戦開幕まであと一刻。


「#大将組版深夜の創作60分一本勝負」参加作品
お題「守る」
瓜野(@u_butterfly_o)

2017.03.19

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