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刀剣乱舞 猫も小判と夢うつつ(後藤藤四郎)

 後藤藤四郎はご機嫌だった。
 その証拠につやつやと鼻は濡れ、針の先みたいな小さな爪は前足の丸みから出たり入ったりを盛んに繰り返していた。ふくふくと広がったひげ、極限まで細められた目。黄褐色にトラ柄を白で描いた毛並みは太陽の光を受けてきらきらと光り輝き、先が少し折れ曲がった長い尾が床を掃く往復運動を止めることはなかった。
 その後頭部を力強く舐めあげるのはざらついた舌だ。薄らと目を開くと真っ黒な毛並みを持つ大きな猫がせっせと後藤に毛繕いを施してくれているところだった。
 後藤には兄弟が他に三匹もいる。彼女と同じ黒い毛並みに紫苑色の瞳を持った薬研藤四郎。同じく黒い毛並みだがこちらは尾が短く、瞳は灰色の厚藤四郎。そして一際長い尾と夕焼けのような赤毛の信濃藤四郎。彼らは一塊になり、ここから少し離れた陽だまりでまどろんでいた。だから、だからこそ今この瞬間に彼女を独占できるのは後藤だけだ。その黒々とした目が見つめるのは彼女がこの世であなただけの景色と誉めてくれた後藤の毛並みで、その柔らかな肉球が優しく押さえるのは彼女が幸運を引っ掛けるためにあるのだろうと言ってくれたぼさぼさの鍵尻尾。
 喉の奥の振動は留まるところを知らなかった。この瞬間が永遠に続けばいいのにと思ったし、ときが止まってしまえばいいとも思った。温かくて心地よくて時折吹く風が花の香りを運んでくるこの場所でいつまでもこうして。
 突然、にゃあんと彼女が鳴いた。甘い、甘い声だった。
 音もなく差し込む影で誰かが来たことを知る。その姿をなぜか後藤は見たくないと、そう思った。けれどもそういうわけにもいかない。意を決して目を開き、金色の虹彩が映したのは鮮やかな浅葱色の毛並み。三角形の耳も長い尾も随分と姿形が整っていた。その「雄猫」もまた甘ったるい声で彼女に答える。ぐるぐると喉の鳴る響き。それが首を伸ばした彼女のものだと気付くのに数秒かかった。浅葱色の猫はゆったりとした足取りで彼女に寄り添う。まるでそうであるのが当たり前であるかのように彼女の鼻先に己のそれをちょんと付け、そして。
「いや、いち兄はだめだろ!?」
「うるさい」
「後藤、うるさい」
「うるさい、後藤」
 飛び起きた後藤藤四郎に間髪入れず兄弟たちの苦情が突き刺さる。
 見渡せばまだ早春の夜の闇は深く、冴え冴えとした月の光が障子戸を通して差し込んでいた。寝間着の合間から忍び寄る空気はひどく冷え切っている。その温度は夢中の陽だまりとは雲泥の差ではあったけれど、後藤は安堵のあまり大きく息を吐き出した。夢かぁという嘆息には万感の毛玉がいくつもまとわりついているようだった。


「#大将組版深夜の創作60分一本勝負」参加作品
お題「猫の日」
瓜野(@u_butterfly_o)


2017.02.22

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