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刀剣乱舞 この掌でできること(信濃藤四郎、後藤藤四郎、厚藤四郎、薬研藤四郎)

「あっ」
 片手で割ろうとした卵は力の入れ具合を誤ったことにより見事に粉々に砕け散った。中からこぼれ出す半透明の白身は信濃藤四郎の掌を濡らし、半球状の黄身は湿った音を立てて作業台の上に落ちると見る見るうちにその形を崩していく。
 その惨事を真横で漏らさず見ていたのは後藤藤四郎。あーとこぼれ出たその声には少なくとも非難は見て取れず、ただほんの少しの呆れと気遣いだけがあった。
「無理して片手でやろうとするなよ」
「後藤はできるじゃん」
「俺はな。お前はまだ無理」
 ほれと渡された布巾で汚れた手を拭う。てらてらと光る掌を衝動的に舐めあげたくなるのをぐっと堪えた。以前、似たようなことをして、兄にみっともないことをしてはいけないと叱られたからだ。
 落ちた黄身は後藤が綺麗に拭い取ってくれる。厨の中心に提げられた行灯から放たれる橙色の光を吸い込んだ卵はあっという間に生成色に飲み込まれた。
 どこか遠くの梢にとまった梟が満足げにほうと一声鳴く声が聞こえる。
「信濃、こっち手伝ってくれ」
 素早く自分の役目に戻った後藤が割り入れた卵をほぐし、手際よく火にかけていく様をぼんやりと眺めていた信濃は厚藤四郎の声に我に返る。見れば炊きあがった白飯がもうもうと湯気をあげ、おひつへと移されるところだった。しゃもじをすいっと入れて粗熱を飛ばす度に米の香りが匂いたつ。並べられた皿の上には短冊形に切られた海苔、醤油と和えた鰹節、それから。
「薬研、そんなに梅干し剥くな…」
「ん」
 無心に梅干しの種を取り除く薬研藤四郎。しわくちゃに干からびた鞠のようなそれを粗方除き、残った柔らかい梅肉は包丁で叩く。どことなく調理というより調合に見えるのは彼の着ている白衣のせいかもしれなかった。
「ほら、手濡らせ」
 言われたとおり水桶に突っ込んだ掌を差し出すと厚が適量の塩を振りかけてくれる。続いてしゃもじでこれまた適量の飯がよそわれると、まだほかほかのそれがなんの覚悟もしていなかった信濃の掌に唐突にのせられた。
「あっつ!」
「ぽんぽんしろ、ぽんぽん」
 両手でお手玉でも操るかのように交互に上下する仕草をした厚の真似をして、空中で白飯を行ったり来たりさせると徐々に掌の熱が引いていく。どうにか持っていられようになるとすかさず薬研が横から梅とおかかどっちにする?と尋ねてくる。
「梅!」
「大将、梅おむすび好きだよな」
「へえ」
「よく知ってるな」
「大将、好きなもの最後に食べるんだよ。いつも梅が最後」
 薬研が真ん中に梅肉を置いてくれた飯を三角形になるように結ぶ。あまり強く力を込めすぎないようにと事前に言われていたことを思い出し、掌の感触を確かめながら数回。どうにか崩れない形になっていることを確認し、丁寧に海苔を巻くと、磯の香りがふわりと鼻先をかすめた。
「できた」
「こっちもできたぞ」
「じゃあ持ってくか」
「大将、喜んでくれるといいな」
 厨の窓からは未だ煌々と灯りを放つ執務室の障子戸が、真夜中にくっきりと浮かび上がるように見えている。



「#大将組版深夜の創作60分一本勝負」参加作品
お題「手のひら」
瓜野(@u_butterfly_o)


2017.02.15

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