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刀剣乱舞 消失という史実(薬研藤四郎、信濃藤四郎)


※不穏です※



「嘘つき」
 燃えるような赤い髪を持つ兄弟刀は滅多にすることのない片目を眇めて相手を見下す仕草をしてからそう呟くと、ふいっと視線を逸らせた。
 その矛先に選ばれた薬研藤四郎は呆気に取られ、思わずぽかんと口を開けてその横顔に見入ってしまう。刀剣に宿った御霊が顕現した刀剣男士は押し並べて皆整った顔立ちをしているが、吉光の名を掲げ、長らく東北の地で秘蔵されてきた信濃藤四郎は華奢ながら華やかで、ぱっと目を引く容姿をしていた。翡翠色の湖水と水面に映る夕焼けが混ざり合ったかのような虹彩は、今は庭の片隅に群れなして咲く水仙に向けられている。平常を装った眉の形。けれど、きゅっと力強く引き結ばれた唇が彼の不機嫌を如実に表していた。否、それが単なる機嫌の傾きなどという現象なのかさえ薬研藤四郎には判断ができない。ただ記憶にある限り概ね牧歌的な雰囲気をまとった兄弟が完璧にへそを曲げているのは確かな話で、その原因が薬研にあるのもまた確かなことのようだった。
 丁子を選別する手を止めて薬研は記憶を遡る。指先には生薬の独特の匂いが移り、その効能なのか作業に没頭する薬研の元に信濃がやって来たほんの少し前の時刻まで頭の中は簡単に巻き戻った。冬晴れの日差しの下、縁側で作業をしていた薬研の元に近づいてくるなり問いかけたのは彼の方だ。俺たちってなんだろう、と漠然とした疑問文はやはり彼にしては珍しく、おやと思ったのを確かにおぼえている。薬研の答えを待つこともなく、信濃は薬研の隣に勝手に腰を下ろす。薬研、と兄弟刀の銘を呼ぶ彼の声は恐ろしく平坦だった。信濃藤四郎は決して感情表現に乏しい刀ではない。だが、ときに薄ら寒いほど冷淡な目で何もかもを見下ろしているときがあった。
「厚はオレたちは刀だろって」
「まあ、そりゃ…そうだな」
「後藤は、俺たちは大将のためにいるって」
「はは、後藤らしいな」
「薬研は?」
 そう、問うた刀は真っ直ぐに鋒をこちらに向けていた。切りつけるためじゃない。命を奪うためじゃない。ただ純粋な疑問が鋭く薬研藤四郎を貫こうとしていた。だから、薬研藤四郎は数秒の思索ののち答えたのだ。その真心に応えるべく本心から。
「俺は、薬研藤四郎だ」
 その言葉を放った次の瞬間にはもうあの台詞だ。
 何が引き金だったのかはわかっても何が原因なのかはさっぱりわからない。お前は何かと尋ねられて名を名乗るのがそんなに気に障ることだったのだろうか。首を捻れど相変わらず兄弟はそっぽを向いたままで、参ったなと苦笑した声にちらりと視線が動く。薬研を捉えた摩訶不思議な瞳の色が揺らめいて、一つ瞬き。続いて、はあっと吐き出されたため息にはわざとらしい呆れの色が混じっていた。
「いいよ、もう。薬研てそういう奴だよね」
「お、機嫌直してくれんのか?気前がいいな」
「そんなんじゃないし。というか別に怒ってない」
「なら、どういう意味なんだ。さっきの」
 嘘つき、なんて穏やかじゃねえな。そう蝋紙の上に散らばった丁子を選り分けながら問う薬研の声に返事はない。予想していなかった沈黙に再度顔を上げれば信濃藤四郎は終ぞ見たことのない顔をしていた。まるで逢魔が時に出逢う、鬼か、物の怪か。一切合切の心が消え失せた無機物の面持ちで彼はぽつりと問いかける。
「お前は本当に薬研藤四郎なの?」



「#大将組版深夜の創作60分一本勝負」参加作品
お題「うそつき」
瓜野(@u_butterfly_o)


2017.01.29

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