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刀剣乱舞 お前の弟たちのことを教えてくれ(一期一振)

 梅の花も徐々にほころび、晴れやかな香気を漂わせ始めたある晴れた睦月の日のこと。
 主の部屋に八つどきの菓子を運んできた一期一振が彼女から唐突に投げかけられた質問は極めて簡潔だった。だが、反して彼は返答に窮す。口元に指先を添え、視線を落とした拍子に浅葱色の髪が頬にかかり、その考え込んだ表情に陰影を落とした。おそらく単に彼と言葉を交わしたかっただけと思しき主は急かすでもなく、花びら餅の柔らかい求肥を指でつまむとゆっくり口に運んで食む。
 庭の花木に蜜を求めてやって来る目白がちゅいちゅいと何度鳴いた頃だろう。熟考の末、粟田口吉光の手によって打たれた唯一の太刀、藤四郎兄弟の長兄は飴色の瞳をあげ、まだ戸惑いの残る表情で目の前の主を見据えた。
「そう、ですな…まず厚ですが、」
「うん」
「あの子は主もご存じのとおり、鎧通しに分類される刀です。名の由来にもなっております刀身の厚みは鎧の隙間を縫い、とどめを刺す際に折れぬため。歴代の主は名将揃いとなりまして、兄の私から見ても戦場で平静さを失わず、しかも非常に頭の切れる子です」
「ああ、知っているよ」
「主にそう仰っていただきますと、何やら面映ゆいですな。…続きまして薬研藤四郎」
「うん」
「この子は他の弟とは違い戦場に最も近い刀でした。足利将軍家から織田信長公へと渡り、戦乱の世を渡り、そして伝説を作りました」
「ああ」
「吉光の短刀はよく切れるが決して主の腹は切らぬ。この薬研の逸話がのちの兄弟たちの運命を定めたと言っても過言ではないでしょう。あの子自身、主を思い、主に思われる、よい刀だと私は思います」
「薬研の働きにはいつも助かっている」
「ありがとうございます。…そうですね、それから後藤藤四郎」
「うん」
「後藤は本阿弥殿に大変お褒めいただきまして、後藤家それから徳川家でも変わらぬご寵愛を受けました。幼い花嫁の守刀としてのお役目も立派に果たし、今でもよく弟たちの面倒をみてくれていますな。主のお役に立ちたいという気持ちも人一倍です」
「その心がけに相応しい、真っ直ぐな刀だ」
「ええ。後藤もそれを聞いたらさぞかし喜ぶでしょう。…それに信濃藤四郎」
「うん」
「信濃は五百枚の折紙を付け、永井家それから徳川家でも大切にされ、その後寛永の頃に出羽荘内藩の酒井家に移ってからはずっとお家で大事にされてきました。主を転々とすることもなく少々もの知らずな節もありますが、天真爛漫で可愛げのある弟です」
「信濃がいると場が明るくなるな」
「私もそう思います。それから…」
 なめらかになり始めた一期一振の言葉を遮って、皿の上の花びら餅をとっくに平らげた主がその後方へと指をさす。はて、と不審に思いながらも振り返ると、薄く開いた障子戸から覗くは八つの目。鋼の灰、夜明けの紫、琥珀の黄褐色、何とも例え難い朱と緑の混在。各々の個性も豊かなその色彩を兄である一期一振が見間違えるはずもない。
「お前たち!」
「いち兄、ごめん!」
「盗み聞きするつもりじゃなかったんだ」
「いち兄に褒められたっ」
「まったく大将も人が悪い」
 俺たちがいるの気付いてたんだろ?薬研の言葉に主は珍しく含みのない笑みを浮かべると、たまにはねと呟いて美味そうに一口茶を啜った。


「#大将組版深夜の創作60分一本勝負」参加作品
お題「いち兄が言ってた」
瓜野(@u_butterfly_o)


2017.01.22

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