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刀剣乱舞 我ら戦場に生まれて戦場にて死す(厚藤四郎、薬研藤四郎、信濃藤四郎、後藤藤四郎)

 戦場に吹く生臭い風が土埃を舞いあげ、不快な塊となり、厚藤四郎の頬を撫でる。
 見上げた空は鈍色の曇天で、今にも泣き出しそうな分厚い雲が地の果てまでも隙間なく覆っていた。傍には倒れた敵の骸が一体、二体、三体。刀装はすべて打ち倒され、部隊からもはぐれ、孤軍奮闘した成果としてはまあまあだろうか。しかし、その代償として厚藤四郎の体は最早小指の先ほども動く気配はなかった。痺れるような痛みは右足と左の膝。じくじくと疼くようなのは背中に浴びた一太刀。仰向けに地へと転がったのはなるべくその致命傷を敵に悟らせないため。とはいえ、壊れた武具はもはや防御の意味を成さず、右手で握りしめた厚藤四郎本体はすでに刃毀れも甚だしい。だが、戦いはまだ終わってはいないのだ。鬨の声があがってから半刻。鈍い地響きと戦特有の金気を含んだ空気はしつこく辺り一帯に漂っている。
 だから、厚藤四郎は戦う意志を失うわけにはいかず、また諦めるなどとはもっての外だった。
 ゆっくりと木立をかき分けてやって来る足音に対し、もうとっくの昔に融通が利かなくなったはずの足腰を奮い立たせ、柄を握る掌に力を込める。立て、立て、立て!
 刀剣に宿りし御霊が審神者なる者の手によって顕現した付喪神、刀剣男士。その使命はたったの一つ。そのお役目はたったの一つ。審神者のもと、己たる刃をかざして敵を討て。己たる白刃を閃かせて歴史を守れ。まるでそれが本能であるかのように。器物であったはずの刀は魂を、心を、血肉をもって戦場へと立つ。抜刀し、脚を踏ん張り、息を吸い、血を巡らせ、息を吐いて、敵を見据える。
 思わず微かに口許を緩めてしまったのは生きて帰る算段が出来たからではない。槍一振り、太刀が二振り、そして大太刀が一振り。間合いが短く、それも手負いの短刀には荷が重い相手に目の前をちらつくのは地獄の一丁目。はて、刀剣も壊れたらあの世へなんぞ行くのかしらと首を傾げてから、己の妄想を己でせせら笑う。
 刀は刀。器物は器物。宿った御霊は人に似れど人じゃない。
 地獄へ行くなら大将か、と独り言が思わず落ちる。どんな御仁であろうと、厚藤四郎にとっては現世における大切な主だ。出来うるなら死後も安らかにあれと願うが、当の本人はあっけらかんと私が極楽浄土へなど行けるものかと笑う。嗚呼ならば。なれば、そうだ。厚藤四郎は言ったのだ。俺が大将の黄泉路の供をしてやるよ、と。他愛もない二言三言の会話。彼女は黒いまなこを見開いて、なんと言っただろう。そうだ、そうだ。
「頼むぞ、と大将は言ったんだ」
 笑って笑って、お前が一緒なら心強いと言ったんだ。その約束を反故にするわけにはいかない。山城国の刀匠粟田口吉光の手によって打たれた短刀、厚藤四郎。青白く冴えた鋼の刀身が鎧をも穿つ鎧通し。その銘にかけて、その歴史にかけて、ここで倒れるわけにはいかぬ。倒せ、と叫ぶ声は誰のものか。倒せる敵か、と囁く声は誰のものか。知らぬともかまわなかった。わからぬともかまわなかった。立ち塞がる敵は討つ。討って、討って、主の元へと帰るのだ。
「-弓兵、構え!!」
 それは聞き慣れた声だった。振り返るよりも早く、条件反射で厚は身を伏せる。キリキリと弦が引き絞られる音はほんの数秒。すぐさま続いた放て!の声とともに空気を切り裂く無数の矢が放たれる。
「厚!」
「無事か、厚!」
 思わぬ奇襲と大柄な体躯が格好の的となり、右往左往する敵部隊に突っ込んで行くのは同じ粟田口の短刀薬研藤四郎。慌てて駆け寄って来たのはやはり藤四郎を同じくする信濃藤四郎と後藤藤四郎。
 二振りの手が触れた途端に厚の全身はまるで支えを失ったようにふらりと傾いだ。それを危うく掴んだ二振りが蒼白の表情を押し隠すのがわかる。そうだ、ここは戦場だから、弱い者が倒れるのは当然だ。無論、厚藤四郎はまだ折れてはいないのだから、無理にでも笑って兄弟の肩を叩く。
「助かったぜ、兄弟。薬研に加勢してやってくれ」
「大丈夫なのか?」
「これぐらいで折れるようなら厚藤四郎じゃないぜ」
「…行こ、後藤。薬研が組み合ってるから弓は使えない」
 信濃が冷静に首を振るうとゆらりと立ち上がる。この刀は劣勢や窮地であるほど冴えた思考を巡らせることができると厚は知っていた。そして、後藤は覚悟を決めるのが早い。つり上がり気味の目はすでに交戦中の前方を見据え、飛び込むタイミングを見計らっている。そして、兄弟一血の気が多い薬研藤四郎は言わずもがな。短刀にあるまじき気迫で敵の薙刀の首にかじりつく。
 頼んだぜ、という声をたぶん誰も聞いてはいなかった。でも、それでよかった。なぜなら厚藤四郎は、薬研藤四郎は、信濃藤四郎は、後藤藤四郎は刀剣男士だ。審神者なる者の手によって顕現した付喪神であり、そしてその存在は刀剣そのものだ。


「#大将組版深夜の創作60分一本勝負」参加作品
お題「刀剣男士」
瓜野(@u_butterfly_o)


2017.01.15

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