ibaraboshi***

home > ブログ > 刀剣乱舞 鈴の怪(信濃藤四郎、後藤藤四郎、薬研藤四郎、厚藤四郎)

刀剣乱舞 鈴の怪(信濃藤四郎、後藤藤四郎、薬研藤四郎、厚藤四郎)

 天守閣の裏手にある山は短刀たちの格好の遊び場だった。
 緩やかな斜面には獣道が幾つも敷かれ、進めば進むほど山深くはあったが、木々の隙間から本丸御殿の鈍色に輝く瓦屋根が見えているところまでであれば迷子の心配もない。時折鹿や猪と鉢合わせして驚かされることはあっても危険な鳥獣の類はほとんどおらず、春になれば木苺を摘み、夏には渓流に釣り糸を垂らし、秋は茸をはじめとした実りを堪能し、冬は霜柱を踏み崩す。四季折々の姿を見せる里山は彼らにとっては庭のようなもので、だからこそ「それ」を見つけた信濃藤四郎はひどく驚いた。
 それは南側に面した日当りのいい松林のほぼ中心にあった。斜面が一際なだらかになり、辺り一帯に生え揃った松もなぜかそこだけぽっかりと空間を設けている。目印になるようなものは何もなく、なんならここに通じるまでの獣道もない。
 それなのになぜかそこには社があった。
 ひどく小さなそれは大人ならひょいと両手で持ち上げられそうなほどだ。けれど小さな瓦も白木の壁も細い木々を組み合わせて作られた扉もまるで昨日建立を終えたばかりのような真新しさで光っている。こんなもの一度だって見かけたら忘れないはずだが、当然見覚えなどない。それが不思議でならなくて、社の前で腕を組んだまま信濃が首を傾げていると、背後から信濃!と兄弟の声がかかった。
「どうし……なんだこれ?」
「こんなのここにあったか?」
「さあ?」
「…ここ、南の松林だよな」
 信濃と藤四郎の名を同じくする厚藤四郎、薬研藤四郎、後藤藤四郎が次々に同じ反応をする。やはり皆揃って覚えのない建造物に困惑しているようだ。
「この辺り、何度も来てるけどな」
「だよな」
「茸狩り来たもんな」
「…なんか光ってる」
 兄弟が口々に意見を述べる中、じっと社に視線を注いでいた信濃はその変化にいち早く気付いた。小さな格子の向こうがゆっくりとした間隔で淡い黄色に明滅する。なんだと身を乗り出してきたのは薬研と厚で、逆に一歩下がったのは後藤。信濃は躊躇いもなく手を伸ばし、繊細な細工の取っ手が付いた観音開きをえいと勢いよく開いた。瞬間、視界に入っていなくとも背後で後藤が血相を変えたのがわかった。
「な!?…んで勝手に開けるんだよお前は!」
「大丈夫だよ」
「お前の大丈夫には根拠ないだろ…!」
「なんだこれ鈴か?」
「鈴、だなあ」
「随分古いな」
 社の中の暗がりにちょこんと鎮座していたのは確かに鈴だった。それも根付けにするような可愛らしい大きさのものではない。それは神事の際に巫女の手によってじゃらんじゃらんと振り鳴らされるそれの一粒だった。薬研の言うとおり年季が入っているのか、輝きはほとんど失われ、くすんだ金色をまとっている。ならば先程光ったように見えたのは鋼のきらめきではなかったのか。
 狐につままれた気分で兄弟が顔を見合わせると、その瞬間を見計らったかのように、りんっと鈴の音が一つ高らかに鳴り響いた。
 軌跡を追うことすらできなかった。次に社の中を覗いたときにはもう、そこはもぬけの殻だった。金色の神具は影も形もなく、薄い闇だけが冷えた沈黙をたたえている。
「…敵の罠か?」
「それなら大将が気付いてなんか言うだろ」
「確かに」
 結局何もわからずじまいのまま、本丸へと戻った信濃たちから事の顛末を聞いた彼らの主は鈴彦姫だろうなと事もなげに言った。
 神楽鈴が年月をかけて魂魄を得た付喪神の一種。お前たちと同族ということになるかなと緩やかに笑ったあと、消え去ったのなら本来あるべき場所に戻ったのだろうとも主は付け加えた。

 その夜、信濃藤四郎は夢を見た。

 虹色の雲が棚引く空の下には朱色の鳥居。立派なお社の前には美しい着物をまとった姫君の後ろ姿。信濃藤四郎は粟田口の短刀だ。守り刀として最高の誉を得て、婚礼の祝いにも用いられ、幾人の姫と呼ばれる娘たちを見てきた。そんな信濃が見ても振り返った彼女は美しかったと思う。ぬばたまの黒髪、二重の瞼に桃の花の色をした唇。でも、思わず口をついてしまったのは刀としての本性が漏れ出したともいっていい率直な胸の内だ。
「大将の懐のがいいなぁ」
 瞬間、目を覚ました信濃の目に映ったのは真っ暗な天井だった。兄弟たちの寝息だけがこだまする暗闇に極彩色の浄土はどこにもない。けれどなぜかそのことにひどく安堵して、信濃は満足げにまぶたを下ろすと再び夢の世界へと帰って行った。


「#大将組版深夜の創作60分一本勝負」参加作品
お題「鈴」
瓜野(@u_butterfly_o)


2016.12.18

新しい記事
古い記事

return to page top