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刀剣乱舞 君思ふ、故に我あり(薬研藤四郎、信濃藤四郎、後藤藤四郎、厚藤四郎)

 日増しに吹く風が冷ややかさを増し、顔を洗う水の冷たさに恨み言の一つもこぼしたくなる季節が到来してから早一月。普段はぴっちりと閉じられた蔵や棚は開け放たれ、本丸御殿も天守閣もいつも以上に丹念に掃除が行き届き、帳簿は慌ただしく宙を飛び交う。その日に向けて淡々と準備が整っていく様にそれほど普段の生活に変わりない刀剣男士たちもどことなく落ち着きをなくす。そんな時期がこの本丸に再びやって来ていた。
 薬研藤四郎が広間を通りかかったのは昼餉も終わった九つ半のことだった。常ならばすぐに片付けられるはずの大机が出しっぱなしになり、何振りかの刀剣たちが各々手に筆を取っては、半紙大の紙を前に唸ったり、淀みなく何かを書き付けている。見慣れない光景に首を傾げつつ、それを眺めていると兄弟刀の信濃藤四郎がその姿に気付き、薬研と声をかけてきた。
「これ書いた?」
「なんだそりゃ。皆して何書いてんだ?」
「大将の話聞いてなかったの?今年一年あったこと、自由に書いて廿日までに大将に提出。昨日言われただろ」
 言われて薬研は記憶の糸を手繰る。確かに昨日の朝餉のあとの主の話は少し長かった。だが、その日の夜遅くまで大掃除によって蔵から発掘された書物を読み解いていた薬研はほとんど夢うつつの中で彼女の話を聞いていたのだ。当然、内容は少しもおぼえていない。
「その顔、忘れてたね?」
「悪ぃ」
 ばつが悪そうに頬を掻いた薬研に信濃が呆れる顔をしつつも、紙と筆を手渡してくれる。乾いた筆はまだ誰にも使われた形跡はない。だが、それこそ本丸中の刀剣男士たちが入れ替わり立ち替わり広間へと件の宿題を記しに来るのだろう。視線をすべらせれば、遠くの方で鯰尾藤四郎と骨喰藤四郎が片ややかましく、片や物静かに筆を動かし、加州清光は物思いに耽っているのか筆を手にしたままぼんやりと庭を眺めている。信濃の隣に座った薬研の向かいにはちょうど同じ粟田口の短刀後藤藤四郎が迷いもなく、せっせと筆を走らせていた。どれどれ、とその手元を無遠慮に覗き込む。そこには顕現してから今までの出来事が読むのに苦心しそうな細かい文字でびっしりと書かれていた。
「お前、字ちっさいなあ」
「うわ!薬研!?み、見るなよ!」
「どうせ大将に出すんだからいいだろ?」
「お前は大将じゃないだろ…!」
 薬研に見られていることに気付いた後藤は頬にさっと朱を走らせると、慌てて手元を隠してしまった。どうも兄弟に見られるのは気恥ずかしいらしい。一方、その隣にいた厚藤四郎はそんな騒ぎなどお構いなしにできた!と高らかに宣言する。空中に掲げられた紙を見れば、そこには彼らしい勢いのある筆文字で戦のこと、兄弟のこと、本丸での暮らしのことがざっくりと書かれ、最後に跳ね回るような書体で「来年もよろしくな、大将!」と記されている。
「…報告書ってこういうもんか?」
「いいだろ、別に。オレが大将に言いたいのはこういうことだ」
 そうからりと言って厚は紙をなびかせつつ、広間を出て行った。その足で主に提出しに行くのだろう。墨汁の匂いが強く鼻先をかすめ、得意げな厚と受け取った主の穏やかな笑みが容易に想像できるようだった。
 隣の信濃はどうやら慎重に言葉を選ぶ余り、兄弟が一人抜けたことにも気付いていない。きゅっと唇を引き結び、大きな瞳を見開いて、一行書いては筆を止め、二行書いては筆先で硯を撫でるのを繰り返す。紙には彼の小綺麗な字が整然と並んでいた。信濃は特に顕現してから日が浅いので人の身を得てから気付いたことを自分なりに主に伝えようとしているようだった。
 さて、俺は何を書こう。
 渡された白紙を前に薬研は改めて考え込む。今年もいろいろあった。戦に出た。誉の桜を満開に戴くこともあれば、意識が遠のくほど打ちのめされたこともあった。短刀としての強みが最大限に生かせる合戦場もあれば、そうでない場所もあった。兄弟たちも増え、戯れるように日々を過ごし、言葉を刃を交わした。季節の移り変わりを五感で感じ、春夏秋冬の美味を食べ、汗を流し、寒さに震え、そうして巡る日々にいつしか薬研藤四郎は慈しみさえおぼえた。あの時代、あの歴史の中で一度なくしたものを今一度手にする日が来ようとは。自分には絶対に訪れることはないと思っていた明日が、またこうしてやって来ようとは。
 だからこそ薬研が主に伝えたいことは簡潔だった。昨日も今日も明日もきっと。薬研藤四郎はここにいる。主によって顕現され、主の命を受け、主によって支えられたこの本丸で、己の役目を全うするために。



薬研藤四郎の一年は気力体力ともに充実。
これからもますます大将の役に立つので期待されたし。

薬研藤四郎



「#大将組版深夜の創作60分一本勝負」参加作品
お題「振り返る」
瓜野(@u_butterfly_o)


2016.12.14

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