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刀剣乱舞 モーニング・カルテット(薬研藤四郎、厚藤四郎、後藤藤四郎、信濃藤四郎)

 山の際より日は昇れど、東から差す光はまだこの部屋には届かない。仄明るくなりつつある広間には健全な寝息が幾つも幾つも立ち昇っては消えていく。
 初秋の折、突然北からやってきた寒気によって本丸は異例の低気温にさらされた。当然冬用の綿入れの寝具の準備は整わず、暖房器具の類もままならない。特に幼い体躯で顕現する短刀たちはあまりの寒さに部屋の隅でカチカチと歯を鳴らす有様で、そんな状態で眠りにつけるわけもなく、皆が頭を悩ませた末に出た結論は単純明快に「くっついて寝よう」だった。広間にずらりと敷き布団が隙間なく敷き詰められた様はなかなかの圧巻だった。白い海のように広がった布団に普段複数の部屋に分かれて眠る短刀たちはしばらくはしゃいでいたが、それも子の刻より前には静かになった。
 薬研藤四郎の記憶が正しければ、そのとき確かに「彼女」はここにはいなかったはずである。身を起こし、肘をついてじっと隣の布団を見下す。その視線の先には黒い髪。枕からはみ出すほどに長く、たわわな絹糸は間違いなく彼らの主のものに他ならない。一体いつから、どうしてここに?疑問は数多脳裏を駆け巡れど、その規則正しく上下する布団と安らかに降りた睫毛を見れば、彼女を叩き起こすことはとても出来そうになかった。仕方なく、そう仕方なくと自分を納得させて、薬研は彼女の寝顔を引き続き観察する。健康的な肌色、しゅっとひかれた柳眉、ほんの少し開いた唇。付喪神と同じ人型、されどまったく異なるその生き物は簡単に壊れてしまいそうなほど脆く見えた。
「薬研…?何起きてんだよ、寒ぃ…」
 隣で目を覚ました兄弟が欠伸混じりに発する声を制す。察しのいい彼、厚藤四郎は慌てて己の口を塞ぐと薬研の肩口の向こうを見遣った。大将じゃねえか、と小声が薄闇を打つ。頷けば、はてと彼も少し前の薬研同様に首を傾げてみせた。
「なんで大将がここにいるんだ?」
「さあな。大方夜中に忍び込んで来たんだろ」
「…寒かったのか?」
「たぶん」
 主が眠るのは粟田口の短刀が横一列で眠るそのちょうど中間地点だった。左隣に薬研藤四郎、右隣に後藤藤四郎。その間のわずかに空いた隙間に見事に納まっている。
 ふと、主の向こう側で布団の中に額までもぐっていた後藤がもぞもぞと身動ぎをした。薬研たちの声によって覚醒を促されたのだろうか。あちこち見事に跳ね回った髪が勢いよく飛び出してきたかと思えば、飴色の瞳が隣を見遣ってぎょっとしたように見開かれる。
「たい…っ!」
「「しー!」」
 彼があげようとした大声はなんとか押し止められたが、その代わり驚いて後ろに飛び退いたせいで眠っていた信濃藤四郎がとばっちりを受けた。いてっと小さな悲鳴のあとに布団の山が獣のような呻き声をあげる。兄弟の誰とも違う、目も冴えるような赤色の髪がぱっと咲く。眠いのか打ち所が悪かったのか。潤んだ目が後藤を睨み付け文句を言うために開いた口がそのままの形で固まった。
「え、大将…?」
「静かにな」
「いつの間にもぐり込んだんだよ…」
「わからん」
「よく寝てるね」
 後藤に最悪な起こされた方をした割に信濃がへそを曲げていないのは、おそらく同じ布団で主が寝ているという今この瞬間の現状のためだろう。後藤は後藤で自分が跳ね起きたせいでめくれてしまった布団を直し、厚はいつの間にか薬研の背中に腹這いにのっかって主を見つめている。
 自分たちを刀剣の付喪神として顕現させたこの世でたった一人の主。戦うための手を、足を、目鼻を、口を、与えてくれた唯一無二の人間。刀剣男士が付喪神なる存在でありながら人間である審神者に従うのは、刀にとって何よりも持ち主である人間が重要だからだと人は言う。確かに、最初はそうだったかも知れない。本能は目の前にいる人間を主と定め、認識し、自然に膝を折らせた。けれど、今はきっとそれだけじゃない。主が他ならぬ彼女であったから。誇り高き吉光の刀は揃いも揃って彼女に傅き、従い、その命を受けて勇んで戦場を駆け抜ける。
「お、」
「大将、起きるよ」
 その声を受けるまでもない。長い睫毛がふわりと震え、瞬きを繰り返して光を取り入れる。目覚めた瞬間、自分を覗き込む刀たちに彼女は驚くだろうか。それとも、当たり前のように笑うだろうか。否、今そんな推測を繰り広げる必要はないだろう。だって答えはすぐにわかるのだから。
「「「「おはよう、大将」」」」
 綺麗に重なった四重奏におはようと軽やかな女の声が答えた。


「#大将組版深夜の創作60分一本勝負」参加作品
お題「おはよう」
瓜野(@u_butterfly_o)


2016.12.11

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