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刀剣乱舞 あなたを知るは世界を知る(御手杵)

「随分飼い慣らされてるみたいだな」
 とげのある言い方にふと視線をあげれば、そこに立っていたのはひどく不機嫌そうな顔をした「自分」だった。
「そういうあんたは、随分不満がありそうだな」
 演練の最中、遠くからはそれぞれの本丸の部隊が力試しをする音が鳴り止むことなく響いている。この「御手杵」もおそらくどこかの本丸の自分とは異なる御手杵なのだろう。彼は当たり前だが御手杵とそっくり同じ顔で数度驚いたように瞬きを繰り返すと、ため息をついた。同じ御手杵のくせに鈍い奴だとでも思われたのかもしれない。
「あんたはいいのかよ、この惨状」
「惨状?俺は結構楽しいぜ?畑耕したり馬の世話したり箸使って飯食ったりさ」
「俺は刺すことしかできない」
「俺もそう思ってたさ。でも主が色んなことやってみろって。で、実際やってみたら意外と楽しかったわけだ」
 槍の付喪神は理解できないといったふうに眉をしかめてみせた。その様子に、さては顕現したばかりの刀剣かと見当を付ける。確かに人の身となったばかりの頃は御手杵も何かと苦労したものだ。何をするにも二本の足というのは慣れないし、掌の感覚も芳しくなく、視覚も聴覚も不安定だ。それに何より。
「あんなのが主だって?よく呼べるな」
 戦うために自分を呼び出し、己が主だと宣った人の子の姿が物慣れなかった。だから、その吐き捨てるような台詞には身に覚えがなくはない。御手杵だって何か一つ間違えば、ひょっとして今でもそんな心の有り様のまま今の主に仕えていたのかもしれない。でも御手杵はそうはならなかった。なぜかと訊かれても明確に答えを出すのは難しい。それでもあえて言語化を試みるなら、それはたぶん彼女らのことを「知った」からだろうと思うのだ。
「いいこと教えてやろうか、《俺》」
「は?」
「俺の主は二人いてなあ。双子の姉妹なんだ。姉ちゃんの方はえらく鉄面皮でどちらかと言えば無口。歩くときもほとんど足音なんてたてやしない。妹の方は姉ちゃんと違って表情豊か。いつもばたばた走り回って全力で短刀たちと遊んでる。二人は何もかもがものすごく似ていてな。見分けをつけるのも大変だから、みな二人まとめて主と呼ぶ。だけど、俺にとっては違うんだ。驚いたことに俺にとって、主たちは全然別の人間に見えるんだ」
「なあ、なんの話だ?」
「それに何より俺の主はなあ」
 彼の言葉を無視して御手杵はにっと笑う。怪訝そうな槍を前に、ほんの少し声をひそめ、大事な内緒話でも囁くように。
「人間に言わせると結構美人らしい」
 御手杵の名を呼ぶ声がする。
 振り返ればそこには件の女がぶんぶんと勢いよく手を振って、こちらへと来るよう招いている。どうやら出番だ。じゃあなと同じ銘を持つ槍に声をかけると、彼はなんとも曖昧な表情で頷いた。いずれわかる日が来るさ、なんてそんなわかったような口はきかない。ただ御手杵は軽やかに身を翻し、己の主の元へと駆けていく。
「俺の出番かー!?」
「そうだぜ、部隊長殿!」

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