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2016年11月

刀剣乱舞 いと愛しき共通項(前田藤四郎+審神者)

「前田は一期一振によく似ているな」
 筆を走らせる手を止め、こちらをじっと見つめてきたかと思えば前田藤四郎の主は感慨深そうにそう呟いた。突拍子のない発言の真意が掴めぬまま、前田が目を白黒させていると、違う違うと言いたげに彼女は片手をひらひらと振るう。
「見目の話ではなくて。口ぶりや所作や、こう雰囲気のようなものだ」
「雰囲気…ですか?」
「吉光の銘を持つお前たち兄弟は多かれ少なかれ長兄の影響を受けているのだろうが、前田は特にその色が顕著だと思ってな」
「そう、ですか」
「不愉快だったか?」
「い、いいえ!」
 ぶんぶんと首を振って否定すれば、主は少し驚いたような顔をしたあとに小さく口元を緩めた。
「いち兄に似ている、なんて光栄です」
「そうか」
「あの、」
「ん?」
「主君もやはり、いつも仰っている姉上様に似ていると言われたなら嬉しいのですか?」
 問えば、私が姉に?と主は首を傾げてみせる。彼女が折に触れて口に出す「姉」には万感の信頼と親愛が詰まっているように感じられたゆえの他愛もない問いかけに主が思いの他考え込んでいるのを見て当然前田は焦る。何か立ち入ったことを訊いてしまったのかもしれない。慌てて謝罪を口にしようとした前田の言葉を当の彼女の声が遮った。戦場に雄々しく立ち、部隊を鼓舞する女とは似ても似つかぬ微かな声色。ぬばたまの黒き瞳は憧憬に濡れ、思わず前田は息を呑む。
「そんなことは…生涯言われることはないだろうが…」
 そうだな嬉しいなあ、と落ちた言葉は雪のように儚く初秋の空気へと溶けた。その声色を、その顔を前田だけが知っている。我らが主君は強く、凛々しく、賢い理想の主。だからこそ、あなたにそんな顔をさせられる御方がちょっとだけうらやましいと彼女の忠実なる懐刀は思うのだ。

Web拍手お返事(20161031)

いつも拍手ありがとうございます!見ていただけて、気に入っていただけて本当に感謝です!励みになります…!
コメントを送ってくださった方へのお返事は以下になります!

■ 2016/10/31 華華様
お久しぶりです、華華様!わーなんの前触れもなく大変失礼いたしました…!実は前々から準備はしていたのですが、移行に思いの外時間がかかってしまいまして、完成した瞬間に嬉しくなって公開してしましました(笑)今回のサイトはスマホでもかなり快適にご覧いただけますので、どうぞまた楽しんでいただけると嬉しいです!
日参…!こちらこそなかなか更新できない中、本当にありがとうございます…!これからもマイペースで続けていきたいと思います。華華様もどうぞ季節の変わり目、ご自愛くださいませ。コメント、本当にありがとうございました!!

刀剣乱舞 カガチノメザメ(大蛇審神者姉妹)

 空気が変わった。
 肌を刺すような殺気が目の前に仁王立ちする二人の主から発せられていることは明確で、吹き付ける生臭い風を浴びてなおその姿は鮮やかな怒りに彩られているように見えた。立ち塞がるは歴史修正主義者の隊列でもなく、最近介入を始めた検非違使なる者たちでもなかった。けれど、彼女らに未知の何かを恐れる気配は微塵もない。むしろ未知なる何かと刃を交えることを喜ぶような、一種の高揚感さえ感じられた。
 地に崩れ落ちたほかの刀剣男士たちも半ば呆然とした表情で彼女らの背中を見つめていた。見つめていることしかできなかった。風に煽られる黒い髪、ジャケットの裾、腰に添えられた手、不敵な笑みを浮かべる横顔。
 笑み。それは慢心から、ましてや絶望から来るものでは決してなかった。彼女らの脳内では今正に凄まじいスピードで目の前の敵に対する分析と戦略が練り上げられ、その指示が信じられないスピードで全身を駆け巡っているのだ。手に取るようにわかるそれを簡単に「戦意」と言ってしまうのも憚られる。立ち昇る殺気に凝縮された鋭利な闘争心。それは審神者としても、隊を率いる将としても相応しくない。
 そこにいるのは、人ならざる異形。
「好き勝手にまあやってくれたじゃねえか」
「同じ物の怪どうし仲良くと言いたいところだがそうもいくまい」
 地が鳴り、風が鳴る。身体を、骨を、揺らす地響きを不審に思う間もない。それは大地を割り砕くようにして地中から突如として現れた。白刃の切っ先。すぐにわかった。何しろそれは自身と同種の武器、槍だったから。しかし、大気を震わす恐ろしい咆哮はただの鋼から発せられる音ではなかった。生きている。そう認識したときにはもうすでに姉妹の手には一振りずつ真紅の柄が握られていた。赤い瞳が、差し向けられた刃が、ちらりちらりと奇妙に揺らめく。まるで蛇の舌が獲物を求めて盛んに出し入れされるように。捕食。その言葉に思い至ったとき、刀剣の付喪神の背を流れたのは冷たい汗だ。
「私たちを倒したきゃ須佐之男と十握剣でも持ってきな」
「そんなこと言うと奴が本当に現れそうだな」
「あ、ちょっとそれは勘弁」
 自分たちの言葉に自分たちで身震いする。おどけて、ふざけて、それでもまかり通る。なぜなら彼女らは人でなし。その肉体の生死など些末。古より日の本の国に生じ、姿を変えて存在し続ける「化け物」。それが本性、それが本質。ゆえに彼女らは戦場で笑む。不敵に八本の槍を掲げ、血の匂いを吸い込んで歓喜し、屍の気配を感じて陽気に吼える。
「さあさ、御照覧あれ」
「出雲のお国の八つの山と八つの谷を取り巻いて」 
「頭と尾はそれぞれ八つ、瞳は鬼灯、牙は金剛、滴る毒は岩さえ溶かす」
「「我ら八岐大蛇の出陣じゃ」」

刀剣乱舞 あなたを知るは世界を知る(御手杵)

「随分飼い慣らされてるみたいだな」
 とげのある言い方にふと視線をあげれば、そこに立っていたのはひどく不機嫌そうな顔をした「自分」だった。
「そういうあんたは、随分不満がありそうだな」
 演練の最中、遠くからはそれぞれの本丸の部隊が力試しをする音が鳴り止むことなく響いている。この「御手杵」もおそらくどこかの本丸の自分とは異なる御手杵なのだろう。彼は当たり前だが御手杵とそっくり同じ顔で数度驚いたように瞬きを繰り返すと、ため息をついた。同じ御手杵のくせに鈍い奴だとでも思われたのかもしれない。
「あんたはいいのかよ、この惨状」
「惨状?俺は結構楽しいぜ?畑耕したり馬の世話したり箸使って飯食ったりさ」
「俺は刺すことしかできない」
「俺もそう思ってたさ。でも主が色んなことやってみろって。で、実際やってみたら意外と楽しかったわけだ」
 槍の付喪神は理解できないといったふうに眉をしかめてみせた。その様子に、さては顕現したばかりの刀剣かと見当を付ける。確かに人の身となったばかりの頃は御手杵も何かと苦労したものだ。何をするにも二本の足というのは慣れないし、掌の感覚も芳しくなく、視覚も聴覚も不安定だ。それに何より。
「あんなのが主だって?よく呼べるな」
 戦うために自分を呼び出し、己が主だと宣った人の子の姿が物慣れなかった。だから、その吐き捨てるような台詞には身に覚えがなくはない。御手杵だって何か一つ間違えば、ひょっとして今でもそんな心の有り様のまま今の主に仕えていたのかもしれない。でも御手杵はそうはならなかった。なぜかと訊かれても明確に答えを出すのは難しい。それでもあえて言語化を試みるなら、それはたぶん彼女らのことを「知った」からだろうと思うのだ。
「いいこと教えてやろうか、《俺》」
「は?」
「俺の主は二人いてなあ。双子の姉妹なんだ。姉ちゃんの方はえらく鉄面皮でどちらかと言えば無口。歩くときもほとんど足音なんてたてやしない。妹の方は姉ちゃんと違って表情豊か。いつもばたばた走り回って全力で短刀たちと遊んでる。二人は何もかもがものすごく似ていてな。見分けをつけるのも大変だから、みな二人まとめて主と呼ぶ。だけど、俺にとっては違うんだ。驚いたことに俺にとって、主たちは全然別の人間に見えるんだ」
「なあ、なんの話だ?」
「それに何より俺の主はなあ」
 彼の言葉を無視して御手杵はにっと笑う。怪訝そうな槍を前に、ほんの少し声をひそめ、大事な内緒話でも囁くように。
「人間に言わせると結構美人らしい」
 御手杵の名を呼ぶ声がする。
 振り返ればそこには件の女がぶんぶんと勢いよく手を振って、こちらへと来るよう招いている。どうやら出番だ。じゃあなと同じ銘を持つ槍に声をかけると、彼はなんとも曖昧な表情で頷いた。いずれわかる日が来るさ、なんてそんなわかったような口はきかない。ただ御手杵は軽やかに身を翻し、己の主の元へと駆けていく。
「俺の出番かー!?」
「そうだぜ、部隊長殿!」

現代帝都 一匹道中涯てもなし

 心地よく晴れたある小春日和のこと。
 常に誰もが多忙を極める神山家の蠱毒師にしては珍しく仕事も家庭内の用向きもなく、ぽっかりと時間が空いた神山何時人は屋敷の縁側でぼんやりと空を見ていた。青い空には点々と綿雲が浮かび、ふわふわのんびりとした速度で流れていく。気温は高くも低くもなく、東から吹く風は微風。穏やかな日差しを浴びて真っ赤に紅葉した庭木の名を何時人は知らない。知る必要も感じず、知りたいとも思わず生きている。神山家の次男坊として生まれるということは、神山家の蠱毒師として生きるということは、つまりそういうことだった。
 柱に預けていた背がずるりとすべる。自重に任せるがままに床へと倒れ込めば、身の内からじわじわと何かが這い出す気配が背筋を走った。普段なら無理矢理にでも抑え込むところだが、今日はそれをしない。たまの休みぐらいいいだろうと意識的に気を抜いてやると、調子に乗った「それ」はぞろりと何時人の中から姿を現した。
 黒光りする長躯を携え、丸みを帯びた三角形の頭に爛々と輝く金色の目。ずらりと並んだ牙は鰐のようだが、それよりも鋭く薄い刃は何もかもを切り裂き、噛み砕き、飲み下す。細かく生え揃った脚は普段は身の内に仕舞われて見ることはできない。そもそも自在に宙を泳ぐ蟲に脚など不要であるだろうから退化してしまったのかもしれない。ゆえに蛇のようにも見えるが、これはれっきとした蟲だ。それも神山家の蠱毒の中でも随一の異質。人間蠱毒の連れし悪食はゆらりと空中で渦を巻くと、己の半身である男の眼前で目を合わせるようにひたりと動きを止める。
「…天涯(てんがい)」
 その名を呼べど無感情な瞳に変化の色一つも見えない。だが、何時人にはわかっていた。これは自分で、自分はこれ。神山に連なる蠱毒師たちが皆大体七つから思春期を迎えるまでの間に「蟲宿し」または「蟲孕み」と呼ばれる期間を経て、護蟲と呼ばれる蟲を「蟲産み」するように、人間蠱毒にとってもまたこれは唯一無二の存在だった。
 てんがい、と声に出さずに呼べばそれは黙って大きな口を開く。口の端のみならず、巨大な口内すべてにびっしりと敷き詰められた歯はただただ食らうためだけに備えられた器官。絶望にも似た飢えから生み出された蟲ゆえに、食うことに特化したその暗きうろに何時人は重たい上半身を起こすと躊躇なく頭から入り込んだ。湿った暗闇の中はほんの少し生臭い匂いがする以外に不快感はない。それよりも底なしの沼に似た闇がどこまでも何時人を安堵へと誘う。ゆるり、ゆるり、目の奥が溶けてゆくような。さらり、さらり、脳髄の端がほどけてゆくような。ここにいるようで、いないような、その安心感はまるで。
「キャー!」
 何時人の至福の時間は絹を裂くような悲鳴でぶち壊された。眉をひそめ、渋々優しい闇から抜け出せば、ひっくり返ったお盆と転がる湯呑みが廊下の真ん中で惨状をさらしていた。おおかた新入りの女中が蟲に食われている様と勘違いしたのだろう。ため息を一つ付いた何時人に今度は自分の番だと言わんばかりに黒い蟲が寄り添ってくる。その頭を撫でながら、人ならざる蟲にして蟲ならざる人はうんざりしたように独りごちた。
「とかくこの世は生きづらい…」

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