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毒を食らわば皿三つ(神山姉弟)

 いくら全力で渋面を作ってみせたところで目の前の姉は嫋やかな笑みを崩そうともしなかった。無論、彼女は単なる姉にあらず。千年の歴史の闇を渡り歩き、現代までその名を引き継ぐ神山家の当代当主にして無情鉄壁の二つ名を轟かせる長姉、神山神楽(かみやまかぐら)その人。彼女は弟の剣幕などどこ吹く風の恐るべきマイペースさで勝手に話を進める。
「安心なさい。相手は両刀だそうだから、女のふりなどする必要ないのよ」
「気にしてるのはそこじゃないよ、神楽姉さん…」
「あなた得意でしょう、閨中の殺し」
「得意じゃないよ!実の弟になんてこと言うの!大体なんでまず火焔姉さんに話しないんだよ…!」
 急に話を振られたもう一人の姉がせんべいを口にくわえたままこちらへと視線を寄越す。心なしか一番上の姉とも自分とも微妙に異なる顔つきをした彼女はパリパリと軽快な音をたてて米菓を飲み下し、茶を一口啜ると、ようやく口を開いた。
「別に私やってもいいけど」
「姉さん…!」
「あら、火焔はだめよ。別の仕事が入ってるもの。それにあなた、いつも暗殺をただの殺人に変えちゃうでしょ」
 それじゃだめなのよ今回は、という神楽の言葉に火焔は急速にこの件に対する興味を失ったようだった。背中を丸め、こたつの中に手を突っ込んで暖を取る様子からは怠惰な女性にしか見えないが、彼女は正真正銘神山家のエースだ。仕事の達成率もさることながら、その対象も常に大物。どんな修羅場に放り込んでも必ず実績をあげてくる様から神山を代表する蠱毒師として一部界隈では色んな意味で名を知られている。ゆえに神楽は火焔の仕事を選ぶし、選ばせる。それが神山の当主たる彼女の仕事だから。
「わかっているわね、遊馬」
 神山遊馬。神山家当主の実弟にして年若き蠱毒師はまだ最たる結果を世に残したことがない。物心つく前から蟲たちと触れ合い、神山の蠱毒師としての技術を叩き込まれてきたことが唯一のアドバンテージと言ってもいい彼は姉の気迫に思わず背筋を伸ばす。
「あなたに必要なのは実績。姉さん何も意地悪で言ってるわけじゃないの」
「…はい」
「よろしい」
 ちゃんと出来た暁には遊馬の好きなもの作ってあげるわと滅多に台所に立たぬ神楽が言えば、すかさず火焔がすき焼きと呟く。遊馬は一つ、姉二人には悟られぬよう小さく息を吐いて、無理矢理困ったような笑顔を作った。
「それは火焔姉さんの好きなものでしょ」
 身のうちがじくじくと疼くのは気のせいで、これは優しい家族の時間で間違いないはずだ。きっと、そのはずだ。僕らは狂ってなんかいないんだから。

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