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刀剣乱舞 ある月のない夜に(小狐丸+審神者)

 血で濡れた抜き身の白刃が翻る。飢えた獣のような表情と荒い息遣いは太閤殿に寵愛されたこの太刀には相応しくない。しかれど刀は持ち主の心をまるで鏡面のように映す。ゆえに今まさに「粛清」が行われたこの本丸における彼はそうならざるを得なかったのだろう。浅葱色の髪が乱れ、虚ろな視線がおのが主の変わり果てた姿を見下ろす。一瞬、こちらを見たその目が色を宿した気がするのはおそらく幻だ。彼は深々と頭を下げる。政府の代理人としてやってきた黒ずくめの女に対し、精いっぱいの謝意を示し、そして膝から崩れ落ちた。主が死んだ以上、彼は付喪神としての体裁をあと数刻も保っていられまい。しかし、彼らは最初からそういう存在だった。審神者の力によって顕現し、審神者の命によって生き永らえる仮初の神。
 女は身を翻す。「仕事」が終わったからには長居する理由もなかった。小狐丸、とかけられた声に愚直な一振りの返事が返る。白銀の長い髪に立派な体躯、目立つ犬歯。他ならぬ女の配下であり三条が打ちし太刀の一振りは主の意図を素早く察し、倒れ伏す人間と刀剣には一瞥もくれず女の後ろに付き従った。悪いなと続けた声に首を傾げる様が妙に獣に似るのはその名ゆえか。
「私の仕事に付き合わせて」
「いいえ。ぬしさまのご命令とあらばなんなりと。それに」
 振り返らずともわかる。物の怪が笑った気配はゆらりとさざ波のように広がり、足元から真っ直ぐ心の臓に向かって這い上がる。
「ぬしさまにお供すれば極上の断末魔の悲鳴が聞けまする。小狐丸はこれが一等好きでございます」
「嗜虐趣味は程々にしておけ」
「ええ、無論心得ております」
 ぬしさま、と狐が鳴く。数ある刀剣の中でも一際物の怪じみた太刀はいずれ朽ち果てる見ず知らずの本丸の廊下を踏み鳴らし、己の主の背中に向かって先程とは打って変わった殊勝さで懇願する。
「小狐丸はお揚げも一等好きでございます」
「…食べて帰るか」
「はい」
 ひょっとして最初からそれが目的ではないか、と思いはしたが口には出さない。心なしか軽やかになった足音に女はそれとわからぬよう少しだけ口元を綻ばせてみせた。闇夜の暗殺稼業をただ獣の目だけが見つめている。

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