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刀剣乱舞 神無月の蛇(御手杵+審神者)

 小春日和の昼八つ過ぎ。いつまで経っても慣れない畑仕事にどうにかけりを付け、自室に戻った御手杵が見たのは畳の上で仰向けにひっくり返った挙げ句、口を開けて寝こけている主の姿だった。
「…なぜ人の部屋で寝る…」
 自分の部屋があるだろと傍らにしゃがみ込んで話しかけても寝息はちっとも揺るがない。降り注ぐ神無月初旬の日差しは柔らかく、吹く風は湿った朽ち葉の匂いを含んでいた。畳の上に散らばった黒髪に白皙の肌、みっしりと生え揃った睫毛に自分とは違う耳の形、鎖骨の隆起、指の腹から少し覗く爪。姉妹二人寸分違わぬその姿。眠れば表情はかき消えて差異はなお深い闇の奥へと消えてゆく。けれど、御手杵は悩まない。規則正しい呼吸、開いた口から見える歯の並び、手首に浮き上がる血管の青。それら一つ一つを明確におぼえているわけでもないのに、わかるのだ。彼女は間違えようもなく。
「起きねえなら頭から食っちまうぞ」
 あーと大袈裟に大きく口を開けると、ぱちっと音でもたてそうな勢いで黒いまなこが開いた。そんなことしたら、と寝起きの掠れた声で彼女が言う。鈴を飲み込んだ注連縄のようにゆらゆらと揺れる声色が、致命傷を上手に避けて槍の鼓膜を緩慢に刺す。
「お前の腹を食い破って出てきてやる」
「それは困る」
「だろう?」
「飯が全部出ていっちまうぜ」
「その通りだぜ」
 御手杵の口調を真似た女はあふうと欠伸をすると全身を犬のように震わせて伸びをし、ようやく人心地付いたのか、おはよう御手杵と心底眠そうな声を出した。

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