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PQ 一月の解(番キタ)

P3主人公 草間奏(そうま かなで)
P4主人公 八塚春貴(やつか はるたか)



 この好意は錯覚だと度重なる熟考の末に断言する度に錯覚ではないような気がしてくるから不思議だ。
 否定すれば否定するほど、肯定される。押し殺し、見ないふりをし、振り払おうとするほどにそれは突然目の前に現れる。まるで幽霊みたいだと、奏は思う。お化け屋敷をモチーフにした迷宮は全く怖くないけれど(だいぶ凝ってはいるが、結局のところシャドウな訳だし)、このぼんやりとした亡霊のごとき感情は身の毛がよだつほどに恐ろしい。どうしてこんなに怖がるのか自分でもわからない。ただ、ふとした瞬間に湧き上がる想いに自分で自分を制御できなくなるような漠然とした不安がある。ここで考えているのは誰だろう。それは果たして奏自身か。それとも奏ではない誰かが、奏の肉体を乗っ取って考えているのか。思考とは個人そのものである。倫理の授業のワンフレーズが螺旋を描いて落ちていく。
「どうした?」
 知らぬ間にぼんやりしていたのだろう。気が付くと気遣わしい鈍色の瞳が至近距離にあって、思わず奏はぎょっとして後退りしそうになった。
 三番目の迷宮、放課後悪霊倶楽部。第二層までのおどろおどろしい学校の内部は三層に来て姿を変え、今は不気味な病院が目の前に広がっている。点滅する赤色灯。滴る真っ赤な何かに黴臭い薬品棚。キィキィと軋む扉にどこからか聞こえてくる赤ん坊の泣き声は雰囲気たっぷりといった風である。仲間たちも怖がったり、喜んだり、平常心だったりと様々な反応を見せながらも相変わらずわいわいと迷宮を進んでいる。
「なんでも、ない」
「…怖い?」
 突然の問いに虚を突かれて、奏は瞬きを繰り返す。それはきっとこの迷宮に対してのもので、そんなわけないじゃないかと言い返すのも首を振って黙って歩を進めるのも簡単で、けれどそのどれも実際の行動に移せなかった。心の海が繋がっている。そう告げたベルベットルームの住人の言葉が蘇る。だからと言って思考まで読まれるはずがないのに、一度大きく跳ねた心臓の音は暴れ馬のように止まらない。動揺。ざわめくのは心か、思いか。黙りこくった奏にしばし考えたらしきサブリーダーは先を進むメンバーに声をかける。
「みんな、そろそろ休憩しないか?りせ、この辺りにシャドウの気配は?」
『…大丈夫、平気だよ。そこなら休憩できると思う』
 ダンジョンナビゲーターを務める少女の声に皆がそれぞれ安堵と不安の声を漏らす。こんなところからは一刻も早く出たいであろう里中は表情を曇らせて友人に寄り添い、一方その天城はといえば嬉々として周囲の観察を始め、意外とこういうのが苦手らしい桐条は落ち着かなく部屋の隅で爪先で床を叩く。花村とクマは相変わらず漫才のようなやり取りを続けているし、コロマルは一つ欠伸をすると休息のためか伏せの体勢に入った。恐らく彼がこの中で一番冷静だろう。
 正に三者三様な仲間の姿を横目に奏はちらりと隣の少年を見上げる。彼も奏と同じように、否それよりもひどく優しい目で仲間たちを眺めていた。違う時、違う場所から呼ばれたペルソナ使い。愚者のアルカナを持つ、彼。
 ふと視線が移動する。かち合って、指先が緊張する。奏の無表情を抗議と受け取ったのかなんなのか。彼は弁明するように言葉を紡ぐ。良かった。この心はばれてない。
「すまない。リーダーに断らず勝手に」
「…みんな疲れてたし、いい頃合いだったんじゃない?」
 そう言うと彼は安心したように目元を緩めた。どちらかと言うと表情豊かな方ではないだろうが、努めてそれを隠している奏よりは余程雄弁に彼は感情を語る。そしてそれが彼が慕われ、好かれる理由の一端でもあるだろう。きっと冷静に、距離をおいて、分析しているつもりの自分だって同じように惹かれている。その声、その心、その温度。ひどく優しいわけではないけれど、とりわけ冷たいわけでもない。ちょうどいい、距離感。彼の傍はひどく居心地がよくて、それでいて落ち着かない。その理由を、答えを、奏は知らないふりをする。
 「愚者」、それは世界の始まりに立つ者の意。未熟な旅人はまだ「その名」を知らぬゆえに、他愛もない会話の糸口を乾いた唇から切り出すに留めるのだ。

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